INPEXが挑む「ネットゼロカーボン社会の実現」企業や大学などの研究機関のハブとなる研究拠点I-RHEX(アイレックス)の研究者にインタビュー
国内および海外で石油・天然ガス等の開発を行う大手石油開発企業INPEXでは、社会のエネルギー需要に応えつつ、ネットゼロカーボン社会の実現に向けたエネルギー構造の変革に積極的に取り組んでいます。
その取り組みの一つとして、クリーンエネルギー技術の開発・高度化に係るネットワークの拠点「INPEX Research Hub for Energy Transformation」(略称「I-RHEX(アイレックス)」)が発足されました。
I-RHEXでは、国内外の企業・研究機関と連携、協働して石油・天然ガス開発技術のクリーンエネルギー技術への応用や先進技術の研究・開発を行います。
今回その立ち上げに参画する3名の研究者の方に理系女子学生がインタビューしました。お仕事内容から、理系学生が知りたい研究においての悩みや打開方法などとても勉強になるお話をたくさんいただきました。理系学生のみなさん参考にしてみてはいかがでしょうか。
研究者プロフィール
青山さん
2014年入社。学生時代は化学工学を専攻。技術研究所EXグループとして、脱炭素社会実現に向けての技術課題の解決、先端技術の開発を行う。CO2回収や新エネルギー供給プロセスのコンセプトを検討するとともに、実装に向けて、関連する技術を持つ大学研究室や企業とのネットワークを構築し、共同研究等を通して課題を解決する。
竹谷さん
2020年入社。学生時代は資源工学を専攻。
クリーンエネルギー技術の中でCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storageの略)に関連した業務に携わる。主にCO2漏洩リスクやモニタリング検討の評価を目的として、CO2を圧入した際の地層内のCO2挙動や拡がり等をシミュレーションにより予測している。
荷福さん
2010年入社。学生時代は地球惑星科学(地質学)を専攻。
地球温暖化対策のひとつである二酸化炭素の地下貯留に関する研究を行う。より多くの二酸化炭素を安全で効率的に貯留するために必要な地質学的条件を明らかにすることを目的に、二酸化炭素を貯留する地下の地層の特徴を解明している。
INPEXに入社したきっかけ
(学生)みなさんがINPEXに入社された経緯についてお聞かせください。
青山さん
専攻にしていた化学工学以外にも、惑星科学や地球科学、地学といった分野にも興味があり、興味を持てる分野でかつ、化学系の人間も必要とされている仕事を探したときに見つけました。
荷福さん
大学院で博士号をとった後、大学に残ってそのまま研究職を目指すか、一般企業に就職するか当時は悩みましたが、自分の研究に関する視野を広げ、いろいろな経験を積みたいと思い、企業で就職することに決めました。
就職先でも今まで得た地質に関する知識や技術には関わっていきたいと考え、INPEXに入社しました。
入社してみると予想もしなかったような経験をすることができ、知識の幅がひろがり、地質のデータにおいても多角的に見て理解できるようになりました。とても良い決断をしたと思っています。
大学の研究と企業での研究の違いとは
(学生)企業での研究イメージがつきません。大学と企業ではどのような点が違いますか。
竹谷さん
大学での研究は知りたいことが明確です。
それを解明するために、研究シナリオを立てて結果を出すという目的が決まります。
その点、企業での研究はプロジェクトベースで進むため、これは知りたいけれども、そこまでは求められていないというように、範囲が決まっています。
ですので、研究の範囲が自分の知りたいことと必ずしも一致しないことはあります。
また、企業では、大学にはない装置や実験機器があります。
青山さん
学生の時は自分が決めた一つのテーマを、とことん突き詰めていくと思います。
現在私が担当している研究テーマは、水素の製造方法や、二酸化炭素の回収方法、大気中に放散されるメタンの削減方法であったりと、本来であれば複数の研究室で行うような分野を同時に行っています。
学生時代の研究のように、自分でフラスコを振って実験をし、データを見ることはありませんが、研究の方向性や、何と何を組み合わせれば理想的なシステムになるかを考え、方向性を決めています。
荷福さん
私の場合、学生時代は自分でその土地の岩石サンプルを取り、分析して数十個のデータを出して解析するというような研究の仕方をしていました。
現在の仕事では、既にある何千や何万のデータを分析し、解釈しています。ですので、自分が手を動かす場所が学生時代とは違います。
地質学に対しては、石油業界もその発展に寄与してきた経緯があります。そこには企業だからこそ取得できた大量のデータが貢献しています。
企業では扱えるデータの量や予算の規模が大きいので、いろいろな経験ができるところが魅力です。
また、学生時代は理学的な関心にのみ基づいて研究をおこなっていましたが、企業の研究では工学的な視点も求められます。地下の地層がどうなっているのかという理学的な視点を土台にして、安全な操業や経済的な利益へつなげていくことが必要となります。
そのためには、地下の状況だけではなく、地上の私たち人間の営みに紐付くように、逆算して考えるようになりました。
ゴールの考え方が変わったと思います。
(学生)研究にオリジナリティはどのように出しているのでしょうか。
青山さん
研究開発のテーマを決める際に”新規性”をどのように出しているかという点では、大学で論文を書くときに考える新規性とは、すこし考え方が異なるかもしれません。
私たちのグループは、最終的にプラントで実証するというのがゴールになるので、必ずしも、アカデミック的にはっきりとした新規性がある必要はありません。
というのは、例えば、新しい反応を今までは高温で処理していたものが、低温でできるようになり、エネルギー消費を少なくできたという実験結果があるとします。
これをすぐにプラントで実装できればよいのですが、実際には実験室の規模では可能だったことが、プラントという大きい単位の中では実現するのが難しいことがあります。
このように、実験室ベースで実現していたことを、実用レベルまでもっていくことも立派な研究テーマになります。
そういった意味では、新規性自体をそこまで重要なこととしては捉えていません。
(学生)大学の研究で、なかなか自分が予想した通りの結果が出ず、どうしても教授や先輩に頼ってしまうことが多くあります。みなさんは実験の結果など行き詰まったときにどのように打開されているのでしょうか。
青山さん
私は、まず自分が作りたいことは何かを考えています。
そこがぼやけてしまうと、どうしても方針が揺らいでしまいます。
どうしても行き詰まってしまった時には、基礎的な理学や工学、統計物理や機械工学に立ち返って考えるようにしています。
竹谷さん
シミュレーションですとどうしても自分の手で行っているものではないので、弾き出された結果がなぜその結果になったのかというのは、やはりどこかで設定上の問題や外的要素があります。
ですので、まず原因として考えられるパラメータを自分で調査し、一つひとつあら探しをします。
それでもわからないことは、先輩や上司に相談しています。
荷福さん
地質の場合、実際にある自然の中の状況を調査し、データをとり、それから考えるといったプロセスになります。
ですので、仮説を立てて実験するというケースとは少し違うかもしれません。
実験で思ってもみない結果がでると、学生さんの場合はいつまでに結果を出さなきゃいけないと、焦ることが多いと思います。
その気持ちはとてもよくわかりますが、少し立ち止まって、出た結果をそのまま受け入れて考えてみる。基本の原理原則にもどって考えて見るとよいと思います。
(学生)企業での研究テーマが学生時代と異なる分野の場合、仕事がある中でどのように勉強されているのでしょうか。
青山さん
学生時代は半導体の研究をしていたので、水素や二酸化炭素の研究については勉強しなおしています。
異動前の施設設計やプロジェクト関連の業務での知識を活かせることもありますが、全く新しい分野の場合は、論文を読み込んだり、専門書で勉強をしたりしています。また、学会や展示会などに出席して、積極的に情報交換を行っています。
現在は、さまざまな分野の大学の研究室や企業の方と話し合い、議論することが多いので、そういった場で最新の研究テーマや課題を聞くことも、とても勉強になります。「耳学」というのでしょうか、とても大切ですね。
竹谷さん
入社してから、ダイナミック シミュレーション(時間の経過により状態が変化することを仮定した解析)や数値計算を扱う業務で、多くのソフトウェアを使って作業する必要がありました。
初めての経験でしたので、提供されているトレーニングやセミナーを受けて、基本的な使い方、内挿されている計算式や基礎知識を学びました。
どうしてもわからない時は、先輩や同期など経験のある方に教えてもらっています。
また、INPEXに入社すると技術的な知識の研修を受けることができます。
この研修では、地質から油層、施設など総合的知識を身につけることができますし、配属後も専門分野に応じて必要な教育や研修を受けられます。
荷福さん
外部のセミナーなど必要なものであれば受講できるので、その制度を積極的に利用して最新の知識を取り入れるようにしています。
「INPEX Research Hub for Energy Transformation」(略称「I-RHEX(アイレックス)」)での仕事
(学生)現在はどのようなお仕事をされていますか。
青山さん
脱炭素社会実現に向けての技術課題の解決、先端技術の開発をおこなっています。
例えば、効率的な二酸化炭素のリサイクルシステムをどのように社会で実装するかなどを検討しています。
具体的な業務としては、各方面の企業や専門家の方々の技術と、私たちのアイデアを持ち寄って実現に向けた共同プロジェクトを立ち上げています。
実際にデータを見ながら、研究結果の解釈や今後の方針を議論している段階です。
荷福さん
CO2ストレージグループで、地質の研究をしています。
まだ組織が立ち上がって間もないため、今後の研究テーマの方針を決めているところです。
具体的には、文献をレビューし、現状と課題を把握して研究提案を行います。
現在は実行段階に入っており、具体的なディスカッションをしながら、予備実験をしています。
竹谷さん
地下に二酸化炭素を貯留したときの地層内部の様子や二酸化炭素の拡がる範囲などを数値シミュレーターにより予測しています。
地下に二酸化炭素を圧入すると、地下の圧力が高くなり、圧入している層よりも上部層に負荷がかかります。
これにより漏洩の恐れが生じるため、地質データを元に安全に地下貯留できるよう、シミュレーションしています。
現在は、このようなシミュレーションをさらに効率的かつ高精度に行うための検討に取り組んでいます。
(学生)研究テーマを探すという作業は、仮説を立ててそれを検証するための実験計画を立ててと、とても難しく大変だと思いますが、実際はいかがですか。
荷福さん
始めた当初は先が見えないし、大変だと感じることもありました。
ですが、これまでの仕事での経験から情報の整理の仕方や問題の解決方法を身につけていたので、大変ではありましたが、全く暗闇の中にいて途方に暮れていたという訳ではありませんでした。
今までの経験が活かされたなと思います。
(学生)仕事のやりがいや面白さはどのようなところでしょうか。
青山さん
新しい技術の開発をすることはとても難しいことで、10個テーマがあるとするとそのうち1つでも成果がでるとよいぐらいの確率です。
ですので、ある程度のところで見切りをつけることも必要になります。
あるテーマで、今後の事業化やプラントでの実施が難しく、検討を中止する決断をしたアイデアがありました。
非常に残念だなと思っていたのですが、その後、あるプラントから操業上の問題について相談がありました。
話を聞いてみると、実はその問題に対して、今回断念した技術をすこし変更して応用すると解決できるという道筋が見えたのです。
現在はまだ研究開発の途中ですので最終的な結果はわかりませんが、かなり有力な方法で、他の企業さんに協力していただきながらプロジェクト化が進んでいます。
一度は駄目で諦めたことでも視点や発想を変えることで、有用になるものがあることを、最近体験できておもしろいなと思いました。
荷福さん
以前所属していた部署では、通常の業務をおこなう期間と集中的にある地域について研究する期間が交互にありました。
研究は3〜6ヶ月の期間で対象地域の地質についてデータを集めて検討したり、他の専門家の方とディスカッションしたりしました。
特に印象に残っているものは、北米のある地域を対象とした地質研究です。その研究では「どのようなエリアが有望な候補か」という議論をしました。
議論では、そもそも“有望”という言葉の定義からはじまり、ビジネス的に“有望”とされる地域を絞り込むために地下ではどのような条件がよいかなど、ビジネスの視点からどんどん逆算して地下の状況に結びつけていくという議論をしました。
いままでの視点とは異なる議論で、自然の地下と地上のビジネスとの関連付けができたという点で、とても印象深く、貴重な経験になりました。
(学生さん)INPEXで働く人はどのような人が向いていると思いますか。
青山さん
専門性を持ちつつ、関連するさまざまな分野に興味を持てる人が向いていると思います。研究開発のプロジェクトでは、自分の専門分野だけで終わる仕事というのは、ほとんどありません。
化学、電気、土木などさまざまな自分が知らない分野の専門家と協力していく必要があります。
ですので、相手の分野に興味を持てる人ですと、楽しみながら仕事ができると思います。
今の部署は立ち上げたばかりですので、研究所の規模としてはとても小さいですが、フットワーク軽く、物事の進むスピードが早いと思います。
自分が提案したテーマも通りやすく、与えられている裁量も大きいです。
どこの研究所と共同研究を行うかといったことも、自分で探すこともできます。
このように、実験室での作業だけではなく、研究開発のプロセスにおいてすべてに関わりたいという方でしたらとても魅力的な職場だと思います。
ぜひINPEXの技術研究所に興味のある学生のみなさん、お待ちしております。
みなさん、貴重なお話しをありがとうございます。学生のわたしたちにとって、なかなか企業での研究イメージがつかなかったのですが、実際に働く社員の方とお会いして、直接聞くことでき、働くイメージを持つことができました。
今回学んだことをこれからの研究にも活かしたいと思います。
また、石油・天然ガス業界と聞くと正直これからの事業はどうなっていくのだろうと不安な部分もありましたが、企業一丸となって、ネットゼロカーボン社会の実現に挑むINPEXさんの熱量を肌で感じることができました。また、私たちが当たり前に使っているエネルギーにはこんなに多くの知識や技術が詰まっているのだなと実感しました。
そして、今後、I-RHEX(アイレックス)が起点となり、大学・企業など外部の研究室とつながり、画期的なプロジェクトが実現されていくことにとても期待がもてました。とてもわくわくするお話をありがとうございました。