【修士・博士課程修了者が語る国家公務員の魅力】国宝や重要文化財を守り日本の文化を未来へと継承していく
修士や博士課程を修了して国家公務員として各省庁で働く4人の職員に国家公務員の魅力について語っていただきます。
第四回は、文化庁文化財第一課文部科学技官に所属し、国宝・重要文化財に指定されている絵画に対して保存・活用事業を支援、また未指定の絵画に対して調査研究を重ね、新たに重要文化財に指定する業務にも従事する伊藤さんです。
プロフィール
文化庁 伊藤 久美(Kumi Itou)
所属:文化庁文化財第一課文部科学技官
略歴:文学部東洋・日本美術史専攻 博士後期課程単位取得満期退学。大学院修了後、奈良国立博物館学芸部アソシエイトフェロー(学芸員)を経て、平成30年4月より現職。大学院・学芸員時代は仏教美術史の研究に従事し、その専門性を活かして選考採用により文化庁へ入庁。現在は国宝・重要文化財に指定されている絵画に対して保存・活用事業を支援、また未指定の絵画に対して調査研究を重ね、新たに重要文化財に指定する業務にも従事している。
国家公務員を志望したきっかけや理由を教えてください
文化庁の仕事を知ったきっかけは大学在学中なんです。というのも、大学の先輩が研究職で文化庁に転職をされまして、その時に初めて文化庁にそういう仕事もあるんだなと知りました。でも当時は、博物館という空間や仏教絵画の世界に強く惹かれてましたし、研究というか考えるという作業が好きだったので、夢であった学芸員になることを目標に研究に打ち込んでました。
今の仕事を意識したのは学芸員になってからです。文化庁の調査官と絵画の修理の現場などで一緒に仕事をしていく中で、博物館だったらその博物館の所蔵品とか、その博物館がある地域が中心になってしまうんですけど、地域に縛られない文化庁の仕事の規模の大きさに改めて気づいたんです。また時間が経つに連れて、日本全国の文化財を真摯に守っていくその姿に強い憧れを持つようになっていました。
大学院での研究テーマについて教えてください
大学院では仏画や仏像といった仏教美術作品の歴史を考える、仏教美術史を研究していました。特に、鎌倉時代に作られた、僧侶の肖像画や絵巻を研究対象にしていました。
仏教美術史に興味を持ったきっかけは博物館での出会いだったのですが、当時の私にとって、仏教美術は一見して何が書いてあるのか分からない作品も多く、自分が知識を得ないと理解できないような世界がそこに広がっているんじゃないのかという魅力を感じたんです。
実は国宝や重要文化財になっている作品でさえ、宗教的・歴史的背景が不透明な部分がまだまだ多いんです。何故そんなに美しく描くのかとか、その形が何を意味していて、どういう風にその絵が描かれているかを、絵画に使用された材料・技法や先行作品・文献と比較することによって、その作品にどういう意味が込められているのかを調査研究していました。
今携わっている業務について教えてください
国宝や重要文化財に指定されている絵画に対して、管理するのはもちろんですが、修理や公開といった保存・活用事業を支援したり、「これはどうして重要文化財になっていないんだろう?」って思うような価値のある未指定の絵画に対して、新しく重要文化財に指定することも主な業務の一つです。
有識者の先生方が集まる専門調査会で審議してもらう必要があるのですが、3人の絵画部門の調査官がチーム一丸となって日々調査研究と資料作成を行っています。そういった意味では、大学の研究や学芸員時代に培った知識や経験は大いに役立っていると感じています。
ただ、行政的なことはほとんど勉強してこなかったので、すごく勉強する必要がありました。今もそうなのですが、行政的に作品をどう守ることができるのか、ということを日々勉強しています。
その他にも、絵画について日々寄せられる様々なご相談に、一つ一つ応えたりすることが多い環境ですので、絵画はもちろん、文化財全般に関する自身の研究を怠らず、見識を深めていくことも重要な仕事の一つです。
国家公務員の仕事のやりがい・魅力
国の行政に直接携わって働いていけること、そして社会に与える影響力の大きさがこの仕事のやりがいだと感じています。
全国の国宝や重要文化財と出会うことができ、それらを保存・活用していく業務に直接携われる仕事は他にそうありません。もちろん、先人たちが伝えてきた極めて貴重な文化財の価値を守り未来に継承していくことは、決して容易ではありませんし重責を覚えることもありますが、その分達成感も大きくやりがいへと繋がっています。
また、未指定の絵画を新しく指定する業務では、状態が良くないものに出会うことが少なくありません。それが所有者の方や、地元の職員の方々の協力のもと、国庫補助事業により修理をすることが決まった時は、この職業に就けて本当に良かったと強く実感する瞬間です。
国宝や重要文化財を陰ながら必死で保護していく裏方仕事ではありますが、そのような役目にこそ、大きな誇りと魅力を感じています。