設計した建物はまるで自分の子供のよう 大成建設(建築設計)
理系学生が企業訪問&先輩インタビューを行う取材シリーズ。
今回は大成建設の設計本部で活躍されている野口さんにお話を伺いました。
ゼネコンでの設計の仕事とは?
大成建設 設計本部の野口さん
--野口さんの学生時代の専攻をお聞かせください。
大学で建築工学の修士号を取得しました。
もともと、建築士になることが夢でした。
大成建設に入社して7年目になります。入社時より意匠設計業務に携わっています。
--設計でのお仕事についてお聞かせください。
仕事内容は、主に教育施設の設計をしています。
中学校や高校などの建て替えプロジェクトや保育園の設計などです。
例えば、保育園の設計では、まず「現地調査」を行います。
実際に現地を見に行き、お客様から、クラスの数や人数、何歳児を対象にするのかなどのご要望を伺います。
そのご要望を元に、イメージ案の絵を描き、それを構造設計や設備設計の担当者と一緒に性能を確認しながら模型を作って検証を行います。
最近ですと、本当にそこにいるように見えるツールを使用し、3D(三次元で)でお客様にプレゼンを行うことも多くなりました。
--設計には大体どれくらいの期間を要するのでしょうか。
130平米(約40坪)ぐらいの保育園ですと、設計期間は3〜4ヶ月かけて行います。
コンペを行うような1万〜10万平米ぐらいの大規模になりますと、1~2年ぐらいかけて行うこともあります。
--設計のアイデア出しはどのように行なっているのでしょうか。
保育園の例ですと、私の場合は、「園児がどのような動きをして通園するか」だったり、「3歳、4歳ぐらいの園児がどのような遊びをするか」ということをイメージします。
そのような人の動きを頭の中でシミュレーションしながら動線計画を立て、建物の配置を決めていきます。
これを繰り返しながら何十通りものパターンを検討します。
大学の建築の授業でも行うと思いますが、エスキス(スケッチ、下絵)をたくさん行い、ボードに貼ってみんなでディスカッションしながら検討します。
もちろん、予算の関係があるため、楽しいことばかり考えるという訳にはいかないのですが、建築学科の学生の皆さんが普段大学でされていることと同じことを会社でも行なっています。
--アイデアに詰まることはありませんか。
アイデアが詰まる時の原因は、「これはダサいかな」「これは好まれないかな」というような先入観があって、出てこない場合が多いです。
ですので、そんなことは考えず、何でも良いので描いて、描いて描きまくる。そうすることでいいものが出てきます。
他の建物の事例や海外の事例などを見ながらイメージを膨らますことも良いですね。
自分が設計した建物はまるで自分の子供のようだ
--印象に残っている仕事についてお聞かせください。
入社2年目から3年目の頃にオフィスの設計を担当しました。
このプロジェクトで初めて自分で設計した建物がこの世に生まれたこともあり、とても印象に残っています。
初めてやることばかりで、設計の段階から、もう分からないことが多く、本当に大変でした。
材料の品質や性能などたくさんのことを検討し、現場と調整を行いながら進めていくのですが、試行錯誤しながらいろんなことを経験してようやく建物が建ちました。
大変でしたが、とてもやりがいを感じました。
--お話を伺って、自分が設計した建物が実際に建つ時のことを想像するだけでもワクワクします。
設計の仕事で一番難しいと感じるところはございますか。
学生時代の設計とは異なり、実務での設計は、機能・性能・コストの条件を加味したうえで1つ1つの材料・寸法を決め、その集大成としてのデザインを作りあげていく必要があります。
何十年のキャリアを持った方でないとすぐに判断することは難しいです。
なので、初めは細かい部分も含めて全て調べますし、実際に何パターンも模型を作りながら検討していきます。
とにかく自分で実物を確認して納得しないとお客様に「これがいいです」と勧めることはできないので、必死に調べ、勉強し、経験を積んでいく必要がありますね。
--設計の仕事は大成建設さんのようなゼネコンの他に設計事務所などもありますが、大成建設さんのどんなところに魅力を感じ入社されましたか。
ゼネコンには設計・施工・開発の部署もあれば、技術センターのように最先端の研究をする施設もあるので事業の幅がとても広く、自分の視野が広がるところに魅力を感じました。
また、大成建設で働いている若手の先輩にお会いした際に、ゼネコンの中でも一番のびのびと仕事をされている姿を見てここで働きたいと思い、入社を決めました。
建築士の仕事については、学生時代に設計会社やアトリエなどでアルバイトをしていたこともあり、イメージはありました。
入社後、さすがゼネコンだなと感じたことは、大成建設にはきちんとした仕組みがあるということです。
各工程での品質のチェックはもちろんのこと、図面の審査など社内のチェック体制がしっかりしている、これがゼネコンの品質だと思いました。
--お仕事をされている中で大切にしていることをお聞かせください。
都市開発の平野さんのお話しにもありましたが、担当外のことでも当事者意識、オーナー意識を持って取り組むということは大切にしています。
また、設計では常に新しいものを取り入れるという意識を持って取り組んでいます。
例えば、ビルにしても同じビルを作るのではなく、「今回は木造とコンクリートのハイブリットにしてみよう」とか、「燃えない木を使ってみよう」など新しいことを取り入れています。
そして、社内には様々な技術部門があり、その分野のエキスパートがいるので、連携しながら新しい空間を作り上げることを大切にしています。
--今後こういう設計をしてみたいというビジョンをお聞かせください。
今、木造建築が見直されています。例えばCLT(板の層を各層で互いに直交するように積層接着した厚型パネル)という強度の高いものや、1時間燃えない木など新しい技術が開発されています。
このことにより、木造で今まで作れなかった大規模な架構ができたり、海外では14階建ての木造ビルが建てられています。
日本はもともと林業国でした。その後一旦木造の時代低迷してしまったのですが、私は、こういった新しい技術で木造建築を見直していきたい。新しい可能性を追求していきたいと思っています。
学生のうちからまちづくりに参画せよ
--最後に学生に向けて何かアドバイスをいただけますでしょうか。
学生のうちから、是非まちづくりに参加してほしいですね。
例えば過疎化の問題を解決するための新しい取り組みやまちづくりのイベントを企画する活動などです。
そのような活動を経験することで、社会の仕組みを一通り理解でき、相手がどういうことを考えていて、どのように提案すれば良いかなど肌で感じ学ぶことができます。
また、私も学生時代にまちづくりに参加したのですが、今でもその時の商工会議所の方とはつながりがあり、第二のふるさとができました。
是非、文系、理系関係なく学生のうちに挑戦してみてほしいと思います。
まとめ:取材を通して学んだこと感じたこと。
インタビュアー(坂本、鈴木)
今回、実際に働く建築士の方にお話を直接聞くことができ、大変勉強になりました。
大学の授業で行なっているエスキスや模型作りなどの経験や知識は企業に入った後にも活かすことができるということがわかりました。
また、良いアイデアが浮かばない時に「私は設計の仕事に向いていないんじゃないか」と心が折れそうになることもありましたが、それはきっと心のどこかで「友達よりいいものを作りたい」「すごいとみんなに思われたい」という思いがあったため、最初から最高のアイデアを求めていたことが原因だったのだと気がつきました。
仕事として自分で設計をすることは、学校を出た後も材料や新しい技術など色々学び経験しながら身につけていかなくてはならず、とても大変だと思いますが、それ以上に実際に建物として残るということはとてもやりがいのある仕事だと改めて感じました。
そして、ゼネコンのイメージから、男社会で若手や女性はあまり意見を言うことができないのではと勝手に思っていましたが、野口さんのお話を聞いて、男女関係なく活躍できるフィールドが あることがわかりました。
野口さんお忙しいところありがとうございました。