【研究室訪問】北海道大学 宇宙化学研究室
理系学生による研究室訪問シリーズ。
今回は北海道大学宇宙化学研究室にお邪魔しました。
早速、教授である圦本先生と、研究室に所属されている女性研究員の方にお話を伺います。
登場人物
宇宙化学研究室 (取材時)
圦本教授
殿谷さん(Dr)
黒田さん(D1)
宋さん(M1)
上林さん(D4)
インタビューアー (取材時)
高原 (筑波大学 生命環境学群 生物資源学類 3年)
廣井 (早稲田大学 基幹理工学部 情報理工学科 2年)
小柳 (新潟大学 理学部 地質科学科 1年)
宇宙化学研究室について
--早速ですが、この「宇宙化学研究室」では、どのような研究をされているのでしょうか。
圦本教授:
太陽系の起源と進化を解明しています。
そのために、様々な装置を使って、地球内外の物質を分析しています。
また、今まで見たり、分析できなかったことを、可能にするために、装置自体の開発も行っています。
ここにいるメンバーの研究内容は、
上林さんは、実験で太陽系の再現。
黒田さんは、火山の研究。
宋さんは、小惑星の水がどこからやってきたのかを研究しています。
殿谷さんは、太陽風の研究をしています。
ーー研究室のメンバーは何人くらいいらっしゃいますか。
圦本教授:
スタッフと学生併せて約30名という大所帯になります。
学生だけですと、約20名で女性は6名ぐらいですね。人数の多い研究室になります。
研究室のメンバーにインタビュー
--それでは、研究室のメンバーの方にも質問していきたいと思います。普段は何時ぐらいに来られて研究されているのですか?
黒田さん:
私たちの研究室には、コアタイムがありません。学生の自主性に任せられています。
私は大体、朝10時、11時には学校に来るようにしています。大学に来るといつも大学内の施設を行ったり来たりしています。
ーーこの研究室では、装置を使って分析を行う事が多いそうですが、分析にはどれくらいの時間がかかるのでしょうか。
殿谷さん:
私は、太陽風の測定をおこなっているのですが、私が行っている分析が一番時間がかかりますね。
太陽風の測定は最低でも1つ測定するまでに2〜3時間はかかります。場合によっては20時間ぐらいかかる時もあります。
待ち時間を利用して、前回行った分析のデータを解析しています。
ーーすみません。「太陽風」て、あまりイメージがつかないのですが、どのようなものなのでしょうか。
殿谷さん:
一番みなさんがイメージしやすいものですと、オーロラと関係があります。
宇宙では、太陽から”荷電粒子”という、エネルギーを持ったイオンが宇宙空間に放射線状に放出されています。
その、荷電粒子が地球まで到達すると、地球の磁場におさえられて、地球の極地へ運ばれます。そして、その荷電粒子が、大気と相互作用して発光現象がおこり、オーロラが発生します。
2003年頃に宇宙で太陽風を収集したNASAのミッションがあり,その時のサンプルを大学にある装置を使って分析しています。
あとで、実際の装置をみていただきますね。
--みなさんが、この宇宙化学研究室を選んだきっかけをおしえてください。
上林さん:
元々、宇宙の研究がしたいと考えていました。この研究室では、実験から分析まで行うことができるので、決めました。
黒田さん:
私は、高校生の時にオープンキャンパスに参加して、原子や分子に着目して地学を学べるという”地球惑星科学科”を見つけました。
大学に入学後、3年生の頃に、この研究室の先生でもある橘先生に授業で出会い、先生の物の見方や着目点が面白いと感じ、この研究室にしました。
しかし、私は地球の研究がしたいと考えていたのですが、実は、この研究室は宇宙の研究室でした。
そこで、そのことを先生に相談したところ、「地球の研究をしてもいいよ」とおしゃってくれたので、私は、地球の研究をしています。
宋さん:
私は化学が好きで、中国の大学で地質を勉強していました。日本が好きだったこともあり、友人に圦本先生を紹介してもらい、この研究室に来ました。
殿谷さん:
私も大学時代は別の大学で変成岩など、地球の石の研究をしていました。
修士課程に進むに当たって、子供の頃から夢であった宇宙研究と、隕石や鉱物を絡めた研究をしたいと考え、リサーチしました。
そして、圦本先生に出会い、圦本先生はその当時、東京工業大学にいらっしゃったので、修士課程はそちらの研究室で学びました。
修士課程を終えた後は、一度社会人になり、アウトリーチを行なっておりましたが、もう一度圦本先生のもとで、研究をしたい、極めたいと考え、この北海道大学の博士過程に進みました。
-- 大学時代に地質学を勉強されていたということですが、私も現在、大学で地質学科に所属しています。「地質」と「宇宙」では少し分野が異なるように感じるのですが、その点はいかがですか。
殿谷さん:
修士過程で宇宙の研究室に入った時は、やはりフィールドが違い、研究内容も全く違うのでインパクトはありました。
しかし、一生懸命に研究を続けると、良いデータが取れるようになったりして結果が出てきたので、とても楽しかったです。
また、新しく開発された装置によって、今まで見ることができなかったものが見ることができるようになりました。
--研究をするなかで、苦労されたことはございますか。
上林さん:
私の研究は実験が多いのですが、実験が上手くいかず、データが出ない時にはとても苦労しました。
そのような時には、先生や、同じような実験をされている先輩からアドバイスをいただきながら、進めています。
黒田さん:
私も全く同じですね。
やはりデータが出ない時期はとても辛くなります。分析が遅くなって帰宅が遅くなるより、データが出ない方が辛いですね。
--データが出ないというのは、想定した結果にならないということでしょうか。
黒田さん:
そうですね。思った結果にならないこともありますが、出たデータから何が起っているのかがわからないということもあります。
私は同位体を測定しているのですが、同位体の値はデータとして出るのですが、それが本当に実験によって起きている現象なのか、実験の仕方が悪かったのか、結果の原因が分からない時は辛いですね。
宋さん:
実験をするには正しい条件で行わないと、出したデータが使えなくなります。
殿谷さん:
データを測定には装置を使うのですが、その装置も条件に応じて調整をする工程があり、時間もかかります。
--ちょっと辛い話になってしまったのですが。。それでは、楽しいと思うときはどんな時でしょうか。
黒田さん:
やっぱり、データが出たときですね!
データが出てその結果からいろいろ推測して、「次はこんな分析をしてみよう」とか、「あれをやってみたいな」とか、いろいろ考えるのが好きでその時は、とても楽しいです。
殿谷さん:
大変なこともありますが、苦労して得た結果を一番最初に自分が見ることが出来る、そのことでモチベーションがあがりますね。
--この研究室では世界で一つしかない同位体顕微鏡システムを開発されていますが、同位体顕微鏡システムではどんなことができるのでしょうか。
圦本教授:
従来の電子顕微鏡では、元素の濃度の違いにより色をつけ判別しているのですが、同位体では同じように見えてしまい、区別することができませんでした。
そこで、同位体比の違いを異なる色で表せるように、網膜のような、二次元で同位体の強弱をつけるような半導体ディバイスを開発しました。
この同位体顕微鏡システムを使い、隕石の中に今まで発見されていなかった太陽系が誕生する前の物質が含まれていたことがわかりました。
--分からなかったことを知るために、分析する装置まで開発されるなんてすごいですね。
普段みなさんが使われている装置を実際に見せていただきました。
これは、「二次イオン質量分析計」です。
この中にサンプルを入れて、サンプルにイオンビームを照射します。
すると、サンプルを構成している原子がたたき出されて吹き出します。
その時に原子の重さの違いによって、描く軌道が若干異なります。
その軌道の違いを測定することで、サンプルに含まれている同位体の割合を検出しています。
この装置ですと、ビームを当てた1点から、何がどれくらい検出されたかしか分からないのですが、圦本教授が開発されたディバイスを使った同位体顕微鏡システムですと、面で分析することができるので、「この場所に何がどれくらい含まれているか」を画像で見ることができます。
この質量分析装置では、太陽風のサンプルを測定しています。
サンプルにイオンビームを当てると、イオンの他に中性粒子がでてくるのですが、その中性粒子にレーザーを打ち込むことで、中性粒子をイオン化させます。
イオン化したものを質量分析することで、太陽風の濃度などを測定しています。
この装置はクリーンルームの中に設置されており、普段私たちは防護服を着て、エアーシャワーを浴びて、中で作業をします。
1回の測定で3時間くらいは短くてもかかるので中に入らなくても作業ができるように、PCから遠隔操作が出来るようになっています。
--思っていたよりとても大きい装置が何台もあり、びっくりしました。最後に圦本教授に隕石を見せていただきました。
この中に46億年前の太陽系ができる前の物質が含まれていると思うと、なんだか、不思議な感じがしますよね。
圦本教授、宇宙化学研究室のみなさん、本日は貴重なお話しをありがとうございました。
北海道大学 宇宙化学研究室の詳細はこちら↓↓
http://vigarano.ep.sci.hokudai.ac.jp/
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