
女性のためだけではないDE&I——三菱マテリアル藤田さんが語る、組織の力を引き出す多様性の考え方
ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)は、単なる制度整備や数値目標ではなく、組織の意思決定やパフォーマンスに直結する重要な経営テーマです。
三菱マテリアルでグローバル人事室DE&I・組織開発グループ長を務める藤田さんは、「DE&Iは女性のためだけの取り組みではない」と語ります。意思決定層における多様性、現場でのインクルージョン、経験者採用やグローバル化がもたらす変化——。
本インタビューでは、藤田さん自身のキャリアを交えながら三菱マテリアルがDE&Iを通じて何を目指しているのか、その背景と考え方を紐解いていきます。
入社のきっかけと就活の軸
Q: 2007年に新卒で入社されたとのことですが、入社の背景や就活の軸を教えてください。
学生時代、大学のボランティアセンターに所属していたのですが、「アジアにおける自由で公正な選挙の実現」に取り組むNGOの活動にも参加したことがあります。私の時はタイが舞台で、まずはバンコクに約15か国からメンバーが集まり選挙監視活動に関する知識等についてのレクチャーを受けた後、3人ずつのグループに分かれてタイ各地へ派遣されました。私はマレーシア人の方とタイ人の通訳の方とのチームで活動しました。
その活動の合間に日本について質問されることが多かったのですが、当時は学生だったこともあり、正確に答えられない場面も多くありました。その経験から、「もっと日本のこと、特にものづくりの現場を知りたい」という思いが強くなり、就職活動ではメーカーを中心に企業を見るようになりました。その中で、社員の方が信頼できそう、この方たちと一緒に働いてみたい、と思った当社を選びました。
最初の配属先で得た学び
Q:最初の配属先では、どのような経験が印象に残っていますか。
入社後は、埼玉県にある製造拠点に配属になりました。最初の数ヶ月は現場実習期間。実際に製造ラインの一部に入ったり、お客様の品質検査に立ち会ったりもしました。その後は総務グループの一員として、日常業務から突発事項対応まで、とにかく色々な仕事をしました。製造現場の日常に身を置き、製品をつくる面白さ、やりがい、楽しさ、大変さを「学んだ」というより「体感した」経験だったと思います。
キャリアの転機と「異動」の捉え方
Q:その後どのようなキャリアを歩まれたのですか。
本社法務部に6年ちょっと所属した後、新潟県にあるグループ会社に2年弱出向しました。その後は本社に戻り、改革推進部を経て今は人事部で勤務しています。
Q:会社の異動やキャリアの考え方は、昔と今で変わってきていますか。
特にここ数年で、大きく変わってきていると感じます。当社は社員一人ひとりが「自分らしいキャリア」を描き、主体的に歩んでいくことを支援しており、それを支える制度や仕組みの整備を積極的に進めています。また、上司とのコミュニケーション機会を増やすことやその質の向上にも取り組んでおり、自身の役割や成果、ライフイベント等に応じた勤務などについてすり合わせをしながら自らのキャリアを築いていくことができると思います。
〈ご参考〉
DE&I領域へ関わるようになった経緯
Q:DE&Iに関わるようになったのは、どのようなきっかけでしたか。
私が人事部に異動した当初はDE&Iの専任組織があったわけではなく、人事業務の一環として、女性活躍推進と障がい者雇用促進に取り組んでいました。その後2021年に専任組織が設置され、私も本格的にDE&Iに携わることになりました。「当社にとってのDE&Iとは?」から役員との議論を重ね、半年程度かけて当社グループのDE&Iに関する基本方針、具体的な目標、施策を検討しました。
その後育児休業を取得し、復職後は一度DE&Iの業務から離れますが、2025年4月から再び今の部署で担当をすることになりました。

三菱マテリアルにおけるDE&Iの本質
Q:女性が注目されがちなDE&Iの推進において、男性からの理解についてはどのように感じていますか。
表立って反対意見などはありませんが、エクイティの観点から女性のみを対象とした施策も実際にあるため、男女ともにどのように受け取っているかについて想像をするようにしています。「男女」という性別の括りで語られることも多いDE&Iですが、DE&Iは決して女性のためだけの取り組みではなく、例えば同じ男性であってもその一人ひとりに多様性があることを認識し、社員一人ひとりがその力を存分に発揮することで組織全体のパフォーマンス向上につなげる取り組みであることを丁寧に説明していく必要があると考えています。
Q:女性比率、特に女性管理職比率の向上を目指す理由を教えてください。
組織の中のマイノリティの割合が3割程度に達すると、そのマイノリティの意見が組織に影響を与えられるようになると言われています。現在の当社において、マイノリティの中で最も母集団形成が進んでいる女性を起点として、DE&I推進を加速させたいと考えています。
ただし、これは女性だけが努力すればよいという話ではありません。マイノリティであった女性の数が増え、組織の中で発言し、意見が受け入れられていく過程を通じて、他のマイノリティの立場にある人も、いわゆるマジョリティの立場にある人も、「こうした意見を出してよいのだ」「このような考え方もあったのか」と気づき、組織全体がより開かれていく。そうして誰もが自己の能力を最大限に発揮できる状態こそが、DE&Iの目指す姿だと考えています。
今後の注力テーマ——意思決定層と製造拠点でのDE&I推進
Q:今後、特に注力していきたいテーマは何ですか。
まずは意思決定層における女性比率の向上です。当社の女性取締役比率は30%、女性執行役比率は今年4月に50%となる予定です。2026年4月からの新中期経営戦略下では、執行役に次ぐ意思決定層における女性比率向上に向け、取り組みをさらに加速させたいと考えています。
目指す姿到達までのプロセスにおいては、これまでお話したとおり、女性だけではなくすべての社員が能力を発揮できる環境をつくることが重要であり、かつDE&Iの醍醐味だと思っています。「属性の多様性」に加え、「認知の多様性」も強化していきたいと考えています。
Q:技術職や製造拠点での女性管理職増加について、課題と方針を教えてください。
当社はメーカーなので、やはり技術職や製造拠点の女性管理職比率をもっと増やしていきたいと考えています。その一環として今年度は、いくつかの製造拠点の職場を「モデル職場」とする活動にも取り組みました。女性社員へのアンケートやヒアリングを通して今まで見えなかった課題を抽出し改善に取り組むことで、多様な属性の皆さんが働きやすい職場環境の整備を進めています。女性のロールモデルは必ずしも女性である必要はありませんが、やはり同性が身近にいることで心強さを感じる場面もあると思います。今後はより技術職や製造拠点のダイバーシティに注力していきたいと考えています。

DE&Iで感じる変化
Q:DE&I施策の中で、目に見える変化を感じたことはありますか。
「DE&I」という言葉が社内で自然に使われるようになり、取り組みについて説明した際に「必要性は理解している」と受け止めてもらえる場面が増えてきました。
また、今年度からは製造拠点でDE&Iのモデル職場を選定し、投資も含めて集中的に環境づくりを進めています。モデル職場では、女性管理職が主体となって職場改善に取り組むケースも見られ、以前と比べて現場レベルでの変化を感じています。
グローバル展開とDE&Iの重要性
Q:三菱マテリアルの新中期経営戦略では「資源循環ビジネスのグローバル展開」が掲げられていますが、グローバル展開が進む中で、DE&Iは今後どのように重要になると考えますか。
社会課題がますます複雑になっている現代において、多様性がなく、知識や経験が偏っている集団ではそれらを最善の策をもって解決することができませんし、そもそも課題の存在そのものに気づかないまま、「これでよい」と判断してしまう危険もあります。
当社グループが解決すべき社会課題を発見し、その解決策を検討する上でも、多様な視点は不可欠です。一方で、単に多様な人材が集まっても、インクルージョンされていなければその能力を発揮することができず、バックグラウンドの違いなどからむしろコンフリクトが起きるだけになってしまいます。当社グループがグローバル展開を加速する上で、ダイバーシティ、エクイティ、そしてインクルージョンを同時に推進することの重要性は、今後さらに高まっていくと考えています。
就職活動中の皆さんへのメッセージ
Q:就職活動中の学生さんへメッセージをお願いします。
「この経験を通して、自分は何を実現してどのように成長したいのか」「なぜ今、この人たちと一緒にここで働きたいのか」「自分の好きなこと・得意分野を活かせる場所か」を一度立ち止まって考えてみるとよいかなと思います。
取り巻く環境や自分の気持ちは変わるものですし、物事との出会いによって判断が変わることもあります。ですので深刻になる必要はありませんが、一度「こうなりたい!」ということをじっくり考えておくと、どのようなミッションも前向きに捉えてその道を楽しめると思います。
Q:キャリアに迷った時、大切にしてほしい視点は何ですか。
前の話と少し矛盾するかもしれませんが、私は「ピンと来たかどうか」という感覚も大切にしています。情報があふれる時代だからこそ、まずは自分の気持ちを確かめる、ということも大事だと思います。自分が選んだ道はどれであっても決して間違いではなく、必ず何かの意味を持っています。ぜひ安心して自分の選択を信じて進んでください。
まとめ——DE&Iは、一人ひとりの力を引き出すための考え方
藤田さんのキャリアと語りから見えてくるのは、DE&Iが特定の誰かのための施策ではなく、「一人ひとりが自分の力を最大限発揮できる環境をつくるための考え方」だということです。
製造現場、本社、グループ会社、そして法務・組織風土改革・人事・DE&Iと、さまざまな業務を経験してきたからこそ、藤田さんは多様な視点が意思決定や組織の強さにつながることを実感してきました。女性比率や制度整備といった目に見える指標の先にあるのは、誰もが安心して自分の考えを声に出し、挑戦・変化・成長できる組織文化です。
学生の皆さんにとっても、これから社会に出る中で「自分はどんな環境で力を発揮できるのか」「どんな人たちと一緒に働きたいのか」を考えることは、キャリア選択の大切な軸になります。
DE&Iは特別なものではなく、自分らしいキャリアを築くための土台です。その考え方が、これからの選択を少しでも後押しするヒントになれば幸いです。









