薬の値段はどうやって決まる?薬価制度の仕組みについて学ぶ
薬は我々が日常生活を送る上で必要不可欠な存在ですが、その値段がどう決まっているのか知っている人は少ないでしょう。病院や薬局で処方される薬は、製薬会社ではなく国が定めています。具体的にどのようにして薬の値段は決まるのか、そして薬の値段に関して社会全体に影響する課題とは何なのか、詳しく確認していきましょう。
日本の医療費の動向
日本の医療費は増加傾向にあります。その理由は様々で、医療を必要とする頻度や期間が若年層に比べ増える高齢者の増加、長期的な治療が必要な生活習慣病患者の増加、医療や技術の進歩などが挙げられます。
日本の医療費は2020年、過去に例を見ない割合で減少しましたが、これは新型コロナウイルスの流行が大きな要因と考えられています。感染を回避するために受診控えが起こった他、コロナ対策を行った結果他の感染症罹患者数が大きく減少したことなどがその理由です。
診療科によって影響の程度が大きく異なり、小児科や耳鼻咽喉科で大きく医療費が下がったと考えられています。コロナをきっかけにした新しい生活様式が今後も続くのであれば、変化した疾病構造に合わせて医療の仕組みや医療提供体制も変わっていく可能性があります。
薬価制度の仕組み
日本で使用されている薬は、薬を開発する製薬会社ではなく、国が定める「薬価制度」によって価格が決まります。一般的な商品やサービスのように値段が決まるわけではなく、特殊な設定方法を用いているのです。
薬価とは
医薬品は、医療用医薬品とOTC(オーバー・ザ・カウンター)医薬品の二つに分けることができます。医療用医薬品は病院などで医師に処方してもらう薬、OTC医薬品はドラッグストアなどで購入できる薬です。
医療用医薬品は国が価格を決め、「薬価基準」に収載されます。この薬価基準に収載された医療医薬品の価格を「薬価」と呼ぶのです。一方OTC医薬品の価格は製薬会社が決めることができ、薬価基準に載ることはないため、OTC医薬品の価格を薬価とは呼びません。
薬価算定のプロセス
まず、製薬会社は新薬を開発すると、国に対して薬価基準収載の申請を行います。新薬が正式に承認されると、製薬会社が提出した資料などを元に国が薬価の原案を作成、その後有識者で構成される薬価算定組織で検討され、算定案をまとめて製薬会社に通知されます。不服がない場合は厚生労働大臣の諮問機関である中央社会保険医療協議会に報告し、承認されれば晴れて薬価収載です。
薬価算定の方法
出典:製薬協 てきすとぶっく2020-2021
薬価はいろいろな要因によって決まります。まず新薬と似たような効果を持つ薬が既にある場合、価格に大きな差が出ないように調整を行います。既に似たような薬があっても、優れた効能や安全性などがある場合は加算があります。
似たような薬が存在しない場合は、原材料費や製造経緯などから薬価を算出します。諸外国の薬の価格も考慮に入れなければなりません。製薬会社が医薬品の価格を決める「自由価格制度」を取っているアメリカ、イギリス、ドイツ、フランスを比較対象国とし、各国の価格の平均額と比較して大きな差が出ないように価格を調節します。
後発品の薬価算定
新薬には特許期間が設けられており、それが過ぎた後に他の製薬会社が同じ成分、同じ効き目として発売するものを後発医薬品(ジェネリック医薬品)といいます。既にはっきりしている新薬の有効性や安全性を下敷きに開発されるため、後発医薬品は開発費を抑えることができ、その分低価格で製造することができます。後発医薬品の薬価は元となる先発医薬品の薬価によって定められ、先発医薬品の約50パーセントの価格で薬価基準に収載されます。
薬価改定とは
薬の値段は、薬価基準に収載されるとずっとそのまま、という訳ではなく、適時見直しが行われています。これを薬価改定といい、原則として2年に1回、4月の診療報酬改定に合わせて行われていましたが、2021年からは中間年にも改定が行われるようになりました。
薬価改定が行われると、基本的に薬の値段は下がります。医薬品卸業者と病院・薬局の間では薬価より安い価格で薬が取引されており、薬価調査を行うことによって取引価格の加重平均値を出し、それに合わせて薬価を引き下げることが、薬価改定の基本になるからです。
医療機関や薬局から患者に対しては国が定めた薬価で費用を請求する一方、製薬会社から卸業者、卸業者から病院や薬局には、当事者間で自由に設定された価格で薬が売買されています。卸業者から病院・薬局に販売された価格を「市場実勢価格」といい、市場実勢価格と薬価の差をパーセンテージで表したものを「乖離率」と言います。薬価改定はこの乖離率を圧縮する目的で行われているのです。
今後の課題となるポイント
従来2年に1回行われていた薬価改定ですが、2021年は薬価改定のない年である「中間年」にも改定が行われました。今後、毎年の薬価改定の議論がなされています。薬価改定の狙いは年々増加する医療費の圧縮にもあります。
2021年の薬価改定では、昨年の調査で乖離率が5パーセントを超えた1万2180品目を対象に行われ、これは薬価収載されている品目全体の69パーセントに及び、特許期間中の新薬で対象に入るものがありました。
薬価改定は次の年の薬価が自動的にさがることで医療費や薬剤費の削減には効果がありますが、薬価調査を行う卸売業者や医療機関には非常に大きな負担がかかります。また、特許期間中の新薬まで薬価改定の対象となり、一つの新薬を生み出すのに多大な投資を掛けている製薬会社の収益に大きな影響をあたえ、次の研究開発投資が進まなくなる可能性が指摘されています。
画期的な新薬が開発されれば患者の生活は大きく改善しますが、研究開発が縮小してしまえばそれもなくなります。結果として消費者や国にとってもマイナスの影響を与える可能性が大きくなります。
医療費削減という視点はもちろん重要ですが、画期的な新薬が持つ価値を評価する仕組みによって創薬の研究開発に資金が投入されて、未だ満たされていない医療ニーズを満たす、また、パンデミックなどの緊急時に国産の治療薬やワクチンを出せるような体制を国を挙げて整備するためなど、いろいろな要素を考慮した上で薬価を定める必要があることが指摘されています。
薬の値段の仕組みを知る
日本では国民皆保険制度によって、誰でも公正、平等な医療を受けることができます。超高齢化社会となった日本社会において、この世界に誇れる日本の社会保険制度のサステナビリティをいかに保つか、非常に重要な課題といえます。
医療費や薬剤費は公定価格であり、税金や社会保険料で賄われる部分が大きいです。社会保障制度における財源の配分においては、どのような医療の提供体制が望ましいかの国民的な議論が必要ではないでしょうか。
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