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街の風景が変わる!?「ワイヤレス給電」の開発を手がける日本精工の社会人ドクターにインタビュー

電気自動車(EV)が普及するための課題として、充電時間・走行距離・販売価格というものが挙げられます。その中の充電時間と走行距離の課題を一気に解決できるかもしれない、画期的な研究が行われています。その研究メンバーのお一人で日本精工(NSK)の社員である郡司さんに詳しく研究内容について教えていただきました。


モノづくりが好きだから、機械も電気も、なんでもやりたい!

学生: 開発者になるまでに歩んできた、キャリアなどを教えていただけますか?


郡司さん: はじめまして、郡司大輔と申します。私は中学の頃から、モノをつくったり動かしたりするのが好きで高等専門学校(以下高専)に進み、自分の手を動かす面白さをたっぷり味わいました。その後大学に編入をして、修士課程で知能機械工学を専攻し「触覚センサー」を研究しました。“いきなり物を渡されたときに、うまく力を調節して持つ”という動きをロボットにさせるという研究で、センサー回路からプログラム、シミュレーションまで一連の流れを自分で行えたのが良かったと思います。半分機械、半分電気という専門分野で何でもできるのが楽しかったし、現在の仕事の中でもそのフレキシブルな姿勢が活かせています。僕は社内の「スキマ産業」と呼んでいるんですが、会社の中で得意そうな人がいない分野を、自分でやってみることもあります。「自分はこれが得意」とか「これが専門」というのを決めないで、何でもやるのが性に合っているんですよね。

修士課程を終えて、2007年日本精工(以下NSK)に入社しました。入社以来、ずっと自動車のことに関わっています。2012年から2015年までの3年間、国内の大学の博士課程にも在籍し、ドクター(博士号)を取得しました。その時に「走行中ワイヤレス給電」の研究を始め、以来ずっとその大学と一緒に共同研究をしています。


チャレンジ精神、育休も取得…活躍できる土壌が抜群

学生:NSKに入社を決めた理由について教えてください


郡司さん: 大学の学部の時にNSKと共同研究をしており、NSKの担当社員が私の大学OBだったんです。先輩の話を聞いてNSKでの働き方がイメージできたので、安心感がありました。

たとえば大規模な総合メーカーでは開発仕様を決めて、実際のモノは協力会社につくってもらうとか、開発試験も関係会社に依頼するとか、そういう傾向にあると思うんです。僕は自分の手を動かしてモノづくりをすることを重視したかったので、NSKではそれができそうだと思って選びました。実際、それは間違っていなかったと思います。


学生: NSKに入社されて、開発者という立場から見て良かったことや、会社の強みなどを教えてください。


郡司さん: 自分が希望する自分であれこれやってみたいというスタイルと、会社の規模のバランスがちょうど良いところです。さらにNSKには、新しいものに取り組んでチャレンジしていこうという空気があります。100年以上続いている非常に古い会社ですが、「新しいものにチャレンジしていこう」という精神があるのも素晴らしいことだと感じます。

たとえば東京モーターショーで新しいものを積極的に展示したら、他社の方から「NSKさんみたいな展示がしたい」と言われたことがあるんですよ。そう言われた時は、非常にうれしかったです。さらに異業種の会社と一緒に研究開発を進めていく機会もあります。こうした取り組みは、全く知らない分野のことを知ることができる良いきっかけになりますね。


学生: 働き方についてはいかがですか。男女とも働きやすい環境だと感じますか。


郡司さん: 男女ともに仕事と私生活が両立しやすい会社です。私には妻と子供が2人いるのですが、第2子の出産時に1週間程育休を取得し、引っ越しをしました。乳飲み子を抱えながら、引っ越しの準備をするのは大変ですからね。私だけではなく、他の男性社員も結構取っていますよ。「育休取るの?」という風潮は、全くないですね。


学生: 働きやすそうな職場ですね。ところで、車の部品を多く作っているNSKの社員は、やはり車好きな方が多いですか。


郡司さん: びっくりされるかもしれませんが、僕はペーパードライバーで普段は全く車を運転せず、いつも妻が運転してくれています。だからこそ、自動運転があったらいいと心から思って研究しています。



車社会のあり方を変える「ワイヤレス給電」の開発


学生: 電気自動車の話も出ましたが、郡司さんが参画されている「ワイヤレス給電」のプロジェクトについて、教えていただけますか。


郡司さん: CO₂の排出量を減らすために、電気自動車の普及がすすめられています。ただし電気自動車は1回で走れる距離が短く、充電に時間がかかります。この問題を解決するためには、3つの解決策が考えられます。

1つ目は、電池の性能を良くしてもっと長い距離を走れるようにすること。

2つ目が、短時間でたくさんの電気を充電すること、もしくは燃料電池のようなものを使って早くエネルギーを入れられるようにすることです。

一方、それらとは全く別の考え方として、例えば電車のように走っている最中に電気を入れることができれば、車に多くのエネルギーを積まなくても、長い距離を走ることができるようになります。いかに車にエネルギーを積まずに長い距離を走るかというのが、「ワイヤレス給電」の基本的な考え方です。


大きなエネルギーを持ち運ばずに走るという方法として、「走行中給電」があり、ヨーロッパなどでは「Electric Road Systems」と呼ばれています。スウェーデンなどヨーロッパでは、精力的に実証実験が行われています。

具体的な方法として,「接触方式」と「ワイヤレス方式」があります.「接触方式」は電車をイメージしてもらえば良いでしょう。我々が行なっているのはそれとは別の、「ワイヤレス方式」です。「Dynamic Wireless Power Transfer」(ダイナミック・ワイヤレス・パワー・トランスファー)を略して、D-WPTと名付けています。ワイヤレスの中でも「電界」を使うものと、「磁界」を使うものがありますが、私たちが行っているのは、「磁界」を使ったタイプです。


学生: 「走行中ワイヤレス給電」が普及したら、とても便利で環境に優しいと思うんですが 、普及するのはいつ頃だとお考えになりますか? また、その課題などを教えてください。



 郡司さん: 大体2030年くらいには空港やショッピングセンター、テーマパークなどの公道ではないエリアで試用し、2040年頃には一般の道路にも普及させたいという、気の長い話です。

課題は何かと言われると、課題だらけです。給電システムを道路に埋め込むので、「インフラが先か?それとも車側の充電システムが先か?」という、卵とニワトリの話のようになってしまうんですよ。ビジネスとしても成り立ち、技術としても成り立つようなところを見つけていくという、インフラを作る難しさがあると思います。

当然、さまざまな企業や行政も巻き込んでいく必要があります。例えば電気モノをつくる会社、機械モノをつくる会社、自動車の会社 、道路に埋めるので建築の会社。さらに充電量や料金を管理する通信関連会社など、少し考えただけで、これだけのプレーヤーが関わらないといけません。いろいろなメンバーが協力して取り組んでいかないと実現できないのが、このプロジェクトの難しいところだと思います。

 また、「ワイヤレス給電」の技術は電動アシスト自転車やバイク、ドローンなどにも展開が可能だと考えます。たとえばドローンが橋梁などに飛んでいって、自動でメンテナンスをして終わったら帰ってくるとか、活動をしているドローンの近くに別のドローンが近寄りワイヤレスで充電して帰ってくるとか、さまざまなスタイルが考えられますよね。



社会人ドクターや共同研究で、大学の叡智を還元



社会人ドクター時代「2013 Annual Conference of the IEEE Industrial Electronics Society(オーストリア・ウィーン)」にて


学生: 「ワイヤレス給電」のプロジェクトが発足したきっかけなどを教えてください。


郡司さん: 私は2012年から2015年まで、東京大学の研究室に、いわゆる社会人ドクターで留学し、ほとんどフルタイムで大学に行っていました。当初は電気自動車をどううまく動かすかという研究をしていました。

あるとき,「ワイヤレス給電」を使った電気自動車の研究がスタートすることになり,指導教員からメカの開発で協力してほしいと言われました。しかし私は「せっかくやるなら、全部やりたい」と申し出て、結果博士論文は「ワイヤレス給電」をテーマにしたものとなりました。

まずは基礎的な部分の技術を研究開発して、そこで出来たものを車に載せてテストをしたのが2015年ごろです。最初はタイヤから大きく出ていて不格好なものでしたが、段々洗練されていき、実際の車にも付きそうなカタチになったと思います。この研究が進む中で、共同研究を行うメンバー・仲間も増えてきました。.


学生: どういうきっかけで社会人ドクターになったのですか?


郡司さん: NSKでは、外部の専門家とも、一緒に研究したいと思っています。共同研究という形もありますが、社会人ドクターという形に、運よく私が選ばれました。

普段の研究だけでなく学会発表などをする時には、大学の方と共著で学会発表をしたり、論文誌を投稿したりすることもあります。大学の共同研究のなかで国際学会などいろいろな所に行かせてもらったのも貴重な経験です。


NSK人事: 世の中はどんどん変化しているので、外部と一緒に新しいモノをつくっていくという動きが、多くなっています。私はもともと研究部門で働いていて、大学と共同研究をしていたことがあります。プロジェクトの大きさや内容によって、共同研究にとどまらず、社会人ドクターでしっかり大学に入って進めているプロジェクトもあるのだと思います。

私がやっていた共同研究の場合は、大学側と半年ぐらい相談を進め、今後NSKとして、そのテーマで進めていいのかという議論を経て、共同研究の契約を結びました。


学生: 外部の見つけ方、最初からコネクションがある教授ではなく、研究したい分野の第一任者をリサーチしてその研究室に問い合わせるのですか?


NSK人事: 私の時はそのタイプでした。前例がない研究テーマで、新しくNSKの技術と合わせてやっていけそうな技術だと考え、まずは先方に相談を持ちかけました。もちろん元々やり取りがある大学の先生と、そのまま共同研究にすんなり進むというパターンもあれば、急に飛び込んで進めていくというやり方も、どちらもあります。


郡司さん: コネクションのある先生から、さらに適任者や研究室を紹介していただいたり、学会でコネクションを作ったり。きっかけはさまざまですね。


開発とは世の中を変えていく仕事


学生: さまざまなきっかけや思い、出会いがあって、開発が進んでいくのですね。実際にアイデアを思いついて、カタチにしていくまでの流れを教えてください。


郡司さん: 私のいる部署に課されているのが、「自動車の分野で、NSK独自の新しい技術・製品をつくる」というミッションなんです。そこで一番大事なのは、いま世の中がどういう流れになっていて、どういう技術のトレンドがあるのかをしっかり調べることです。その中でディスカッションをしていく。そして試作やテストをして、もしくはシミュレーションをして確かめて、その結果をお客様に提案します。

あとは東京モーターショーなどの展示会が多々ありますので、そういうところで「私たち、こんなモノを作ってみたんですけども、どうでしょうか?」というPRをして、反応のいいものは開発を進め、不評であればやめるという流れです。社内・部署内だけで考えても全てうまくいくわけではなく、自分たちとお客様の思いが食い違ったり、世の中の流れが変わってしまったり、全てが世に出るわけではありません。よく言われるのは「開発は、野球で言うと打率1割」ということです。

その中で、とにかくやってみるということを大事にしています。考えて、実際にモノをつくって、例えば車にまで載せてテストをするとなると、1〜2年は時間がかかります。


学生: そうした一連の開発業務のやりがいや、大変なことはありますか?


郡司さん: やりがいは、企画を立て、設計をし、作って試して、それをお客さんの所に持っていきPRするという、一連の流れを全部できることですね。フィードバックを直接受ける面白さがあります。

いま取り組んでいる「ワイヤレス給電」は、うまくいけば世の中のインフラが変わるわけじゃないですか。車に乗っていたら勝手にエネルギーが充電される車社会に変わったとして、ほんの一部であれ、これを成し遂げたと言えれば「俺は人生でこれをやったぞ」と言える大きな仕事になるなと思っています。

大変なことは、世の中の流れや技術を自分の中で吸収して、理解し続けることです。何か新しいものを捻り出すことが、一番大変なことだと思います。「やることが決まれば、半分終わったようなもの」だとよく言われますが、まさにそれだと思います。


学生: ありがとうございます。それでは最後に、開発者を目指す学生に一言メッセージをお願いいたします。


郡司さん: 会社の中でも、他の企業とのお付き合いの中でも、大学の先生でもすごく仕事ができる技術者って、基本的にモノをつくったり動かしたりすることが好きなんです。「高校の時に理数系が良かったから、工学部に来ました」という感じではないんです。元からモノづくりが好きだという人が、活躍していると思います。学生時代にも「これできたらすごいよね」とか、「これ楽しい」というものを見つけて、取り組んでほしいです。

そして自分が開発を実現して、世の中を変えていくという意気込みが必要だと思います。専門に縛られず、いろいろとつまみ食いをして、楽しいと思えることを追求して欲しいです。


学生: 私はまだ研究室に入ってそんなに長くはありませんが、いまは楽しく研究をしています。これからも開発者を目指して、楽しんでいきたいです。貴重なお話ありがとうございました。


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