整形外科領域・救急集中治療領域を重点に、「グローバル・スペシャリティ・ファーマ」を目指す旭化成ファーマの創薬研究
旭化成グループは、繊維、ケミカルなど様々な事業を展開しており、旭化成ファーマ株式会社(以下「旭化成ファーマ」)はその中でヘルスケア領域の医薬事業を担当しています。
旭化成ファーマは、ドラッグストアで売っているような一般向けの医薬品は販売しておらず、医師が処方する医療用医薬品、体外診断用の医薬品、診断薬用の酵素を販売しています。
従業員数は、現在約1700名、全国に支店や営業所があり、今回お話をうかがう研究者の方が所属している医薬研究センターは、静岡県の伊豆半島の伊豆の国市にあります。
旭化成ファーマは、主に整形外科、救急集中治療などの領域の製品に力を入れており、領域を絞ってその領域で存在感を持つ、グローバル・スペシャリティ・ファーマを目指す製薬企業です。
主な製品の紹介
整形外科領域
骨粗鬆症の治療薬として、1982年に発売した「エルシトニン」、2011年に発売した「テリボン」(旭化成ファーマのトップ製品)、2016年発売の「リクラスト」という製品があります。リウマチの薬としては、「ブレディニン」、「ケブザラ」などがあり、骨粗鬆症・リウマチの分野では、かなり長い歴史を持っている会社です。
救急集中治療領域
救急救命センターやICU などで使われる「リコモジュリン」。DICという、全身の臓器に障害が起きて、さらに全身に出血が起きるという非常に重篤な症状に対する治療薬です。現在、標準的な治療薬と位置付けられています。
さらに診断薬では、酵素製品の他に糖尿病の血糖値の管理に使われる測定試薬といった製品もあります。
旭化成ファーマは、世界中の様々な製薬会社や大学研究機関等と共同研究も行っています。
今回、旭化成ファーマの創薬研究に携わる女性研究者3名にお話を伺いました。
登場社員紹介
小松さん:医薬研究センター先端創薬研究部に所属
大崎さん:医薬研究センター薬理研究部に所属
山守さん:医薬研究センター薬理研究部に所属
創薬の研究開発において大切なことは、諦めないこと、きちんとデータと向き合うこと。
(学生)現在の皆様のお仕事の内容について教えてください。
大崎さん:
私は現在、薬理研究部という部署に所属しています。名前の通り、薬のタネになる物質を探しだした後に、薬効があるかないかを確認したり、薬効のメカニズム解析を行ったりしています。
そのために、細胞評価系や疾患モデルを作製して、きちんと評価できるように検証しています。
また、治療標的となる分子を探してくることや、既にある薬を「より良い薬にできないか」といったアイデアを考えるのも仕事の1つです。
山守さん:
私は今、整形外科領域の、特に骨領域で新薬開発を行っています。現在は動物モデルで申請用の薬効データを取得するという、開発段階としては後期のテーマを担当しています。
同時に、同じ薬を別の疾患に適用して開発を進められないか、動物モデルを新たに作成して、薬効評価を行っています。
小松さん:
私の先端創薬研究部は標的となるタンパク質と、薬物の候補となる化合物、それぞれの構造を解き明かして、その構造から最適な化合物を生み出す探索研究を行っています。その中で私のチームでは、核磁気共鳴法(NMR)や質量分析、X線などの分析機器を用いてタンパク質と化合物の構造解析や相互作用解析を行い、化合物最適化の加速につなげています。
(学生)創薬の研究開発は長い年月がかかると思いますが、そんな中、研究を行う上で大切にされていることは何でしょうか。
小松さん:
「上手くいかない事があっても、諦めないこと」です。常にいろんな視点を持って考え、試行錯誤しながら進めていくことを意識しています。
大崎さん:
私はどんな実験をするにしても、「きちんと判断ができるようなデータを出すこと」を意識しています。たとえ薬効がなかったというデータだったとしても、薬効がないということを判断することは、とても大事です。
そのため、「よくわからないな」という結果にならないように、きちんと実験をコントロールしたり、あとで振り返ることができるようにしたり、そういったことを大切にしています。
山守さん:
「出てきたデータをきちんと誠実に見ること」です。思ったような結果じゃないことも多いのですが、そんな中でも出てきたデータを真摯に受け止めて、そこから次に繋げる姿勢がないと、前に進んでいかないと思います。そういったところは、意識しています。
(学生)日々研究をしている中でやりがいを感じるのはどんな時でしょうか。
大崎さん:
「候補の化合物が効果あるかもしれない」というデータが取れると、プロジェクトのモチベーションも大きく高まります。
山守さん:
動物モデルで薬効評価を行い、良いデータができたときは、実際に今自分で作っている薬が、患者さんの役に立つというところがイメージできるので、すごくやりがいを感じます。
また、お医者さんとお話しする機会が多く、患者さんの生の声や、お医者さんのニーズを直接聞く機会が多いところも、モチベーションに繋がっています。
(学生)研究職はどうしても時間が取られてしまうイメージがあり、女性研究者としての働き方についてお聞きしたいと思います。ライフイベントなどが研究の成果や進捗に影響を与えることはありますか。
大崎さん:
私は子供が2人いまして、2回産休・育休を頂いています。研究職は自分でスケジュールを立てるケースが多く、自分のペースで実験できるので、予定が組みやすい職種だと思います。
制度としては、フレックタイム制というフレキシブルに勤務時間を選べるような制度もありますし、裁量労働制と言って、そんなに時間に囚われないような働き方もできるので、自分に合わせた働き方ができるような職種だと思います。
時間管理をしないといけないのは、子供を持っている女性だけでなく、男性も含めて、「時間管理をきっちりしましょう」という雰囲気です
小松さん:
私も1回産休・育休を取っていますが、復帰しても自分でコントロールしながら働けています。また研究もチームでしているのでその時々で補い合って仕事していける環境があります。
1つの薬で多くの人に貢献できる。創薬の研究開発に込める想い。
(学生)学生時代から薬関係の研究をされていたのでしょうか。
山守さん:
私は生体膜を構成しているリン脂質や脂肪酸など、脂質の研究している研究室に所属していました。線虫という体長1ミリぐらいのミミズみたいなモデル動物を使って、遺伝学、生化学、分子生物学などを駆使して、脂質のバランスが崩れたときに、どういう生体応答が起こるかという研究をしていました。ベーシックな研究だったので、創薬に直接関連するような事はありませんでした。
大崎さん:
私は遺伝子改変マウスを用いて、標的の遺伝子の機能解析を行っていました。生化学実験や動物実験がメインでしたが、投与や薬理実験は、学生時代にはしていませんでした。
小松さん:
私は工学部出身です。工学部の有機合成研究室で天然物の全合成研究を行っていました。薬剤の候補化合物を合成するという意味では近いですけど、学生時代は薬の研究を目指していたわけではないです。
(学生)皆さんが製薬業界を目指したきっかけを教えて下さい。
山守さん:
私は元々医療の分野に興味があり、また生物の勉強が好きだったこともあって、その辺りを活かした仕事に就きたいと思っていました。大学院での研究が楽しくて、研究職を目指しました。製薬会社の研究職を目指したのは、新しい薬を作って患者さんを救うことで社会に貢献したいと思ったからです。
大崎さん:
私は研究職に対する憧れみたいなものがありました。薬を1つ作るだけで、何万人という人の治療に貢献できるっていうのはすごく魅力的だなと思ったので、製薬企業での研究職を選択しました。
小松さん:
私は実は、旭化成ファーマ入社ではなくて、旭化成の本体の方に入社しています。それで最初は全然ファーマとは関係ない仕事をしていて、化学製品の分析や構造解析をしていました。
そこでの分析技術の開発がファーマにも役立つ技術だということで、ファーマに異動になり現在に至ります。
やはり、化成品を1つ作るのに比べると、創薬には本当に何倍もの時間がかかります。時間がかかる研究開発ではあるのですが、社員が同じ目標に向かうモチベーションがとても高いと感じています。
(学生)多くの製薬企業がある中で、旭化成ファーマさんの強みや特徴はどんなところでしょうか。
山守さん:
自社の動物実験設備が揃っているので、スピーディかつ低コストで研究を進めることができていると感じています。
また、やや抽象的かもしれませんが、プロジェクトが上手くいかなくなった時でも「諦めない」というところも強みだと思います。
「何かその課題を解決する方法はないか」と考えて研究を進めています。実際、そういった姿勢が花開いて世に出て行った薬があります。
粘り強く、果敢にトライする姿勢があるのは、良いところかなと思っています。
大崎さん:
特定の領域ではありますが、その領域における知識と技術力は、非常に高いと感じます。また、プロジェクトを進める上で、良い点も悪い点も皆さんから指摘をいただけます。社員みんなで進めていこうという感じが伝わってくるのが、嬉しいです。私も見習って、他の人のプロジェクトにも貢献したいと思っています。
(学生)これから創薬の研究を目指す学生にアドバイスをお願いいたします。
小松さん:
コミュニケーションが一番大事かなと思っています。
企業に入ると、他の部署や、他の研究のデータと合わせて「何か新しく生み出す」というところに繋げていかなくてはいけません。そのためには、周りとのディスカッションがより重要になるので、コミュニケーション能力を磨いて欲しいと思います。
山守さん:
私がいた大学研究室は1人1テーマで、それぞれ研究するという感じでした。企業では、1つのプロジェクトにいろんな部門の人が関わり、同じ部門の中でも複数名で担当します。このようにチームで取り組むことは、大学と会社に入ってからで大きく違うところなのかなと思います。
会社に入ると色々な方々と関わる機会が多いので、学生のうちから、いろんな人とコミュニケーションをとる意識を持つと良いかもしれません。
本日はお忙しい中、ありがとうございました。研究を進める上で参考になるお話しをたくさん聞くことができました。
特に実際に自分で取ったデータから、そのデータを真摯に見つめて、そこから判断した上で今後の課題とアプローチとして多角的な視点を持つというお話しは、私の研究を振り返って、ちょっとできていなかったなと思う部分なので、これからの研究生活で活かしていけたらと思います。
残りの学生生活でいろいろな研究をして、いろいろな人とコミュニケーションを取ることも、今しかできない事だなというのを改めて実感することができました。
たくさん役に立つお話しを聞くことができました。ありがとうございました。