製薬業界を目指す理系学生なら知っておきたい、薬の基礎知識
製薬企業は人々の健康を維持するため、さまざまな医薬品を開発しています。人体への安全性や効能を長期的に観察しながら、より優れた医薬品を生み出すために日々研究が行われていますが、専門的な内容も多く、製薬業界に関与していなければ理解しづらいものです。そこで今回は、製薬企業に興味のある学生さんが知っておきたい医薬品の基礎知識について見ていきます。
医薬品の種類と特徴
医薬品とは
医薬品は病気やけがの診断および治療、予防に使われるもので、内服や外用、注射などで用いられます。
医薬品には大きく分けて医療用医薬品と要指導医薬品、一般用医薬品の3種類があります。医療用医薬品は医師や歯科医師が診断を行ったうえで、その人の薬に対する感受性や症状に見合った内容で処方を行い、薬局の薬剤師が調剤するものです。
医療用医薬品
医療用医薬品の中にも新薬とジェネリック医薬品があり、前者は先発医薬品、後者は後発医薬品とも呼ばれています。新薬は、日本製薬工業協会の会員にもなっている製薬企業が長い時間と多くの研究開発投資を費やすことによって生み出した、全く新しい医薬品です。
新薬は開発を始めてから発売するまでに多くのコストがかかっていること、前例がないため、ある程度時間をかけて投薬の経過を観察しなければならないことから、再審査期間が設けられています。再審査期間中は、開発した製薬企業に対して品質や有効性、安全性を確認するように義務付けている一方で、同一成分の他社製品を承認しないため、独占販売が可能です。
一方、ジェネリック医薬品は再審査期間が終了し、特許権存続期間が満了した後で、他社が新薬と同じ有効成分を用いて製造・販売する医薬品です。
要指導医薬品
要指導医薬品は医師の処方なしに自分で選んで購入することが可能なOTC医薬品の中でも、医療用医薬品の経験がなく、直接OTC医薬品となったダイレクトOTC薬、医療用医薬品から転用されたスイッチOTC薬の中で転用から3年以内の薬、毒薬および劇薬のいずれかになります。いずれも自分で選ぶことはできますが、購入するときには薬剤師の対面による情報提供や指導を必要とします。
一般用医薬品
一般用医薬品は、風邪薬や胃腸薬などの薬局や薬店で購入できる市販薬です。ネット販売も認められていますが、リスクの程度に応じて第1類、第2類、第3類に分類されており、最も高リスクな第1類は薬剤師による書面を用いた情報提供を必要とします。第2類と第3類は薬剤師または登録販売者による販売が可能です。
薬の形状と特徴
薬は目的や用途によって様々な形状をしており、大きく分けて内服薬、注射薬、外用薬に分けられます。
内服薬
内服薬は胃や腸で吸収されて効果が得られることを目的としており、錠剤やカプセル剤、顆粒剤、ドライシロップなどが挙げられます。体内濃度を維持が容易で、飲みやすさや携帯するときの利便性、保存のしやすさなどの理由からよく利用される剤形です。
注射薬
注射薬は筋肉や皮下、血管に直接薬剤を注入するため、即効性があるのが大きな特徴です。効果を早く出したい場合や消化管で分解されてしまう薬を使用するときなどに用いられます。特に静脈注射は短時間で効果を発揮するため、血液に入ってから1~3分程度で患部に届き、効果が表れます。
外用薬
外用薬は主に皮膚表面に塗布することにより、有効成分を外部から吸収させるものです。軟膏や貼付財などが該当し、主にケガや炎症の症状改善のために用いられます。
医薬品の名前
医薬品には、医薬品の成分そのものを指す一般名と、製薬企業が商標登録したブランド名に当たる製品名がそれぞれつけられています。製品名は製薬企業が自由につけられるため、さまざまな名前がついており、薬局や薬店で購入するときもこちらを見てから医薬品を選ぶことがほとんどです。
一方、一般名は世界保健機構(WHO)の国際医薬品一般名専門家協議で審議を行った上で決定された世界共通の名前になります。
日本では、薬局や薬店で一般用医薬品を販売するときには製品名が主流です。しかし、医師が処方を行う医療用医薬品に関しては、後発品が出ているものは一般名で処方するように厚生労働省が推進しています。
具体的には、2012年度の診療報酬改定において、医師が製品名ではなく一般名で処方を行った場合、処方箋料の加算が認められるようになりました。これは、製品名の場合は指定されたもの以外に変更しづらいですが、一般名ならばジェネリック医薬品を提供することも可能になり、ジェネリック医薬品のシェア拡大が容易になるからです。
創薬と様々な医薬品
創薬とは、その名の通り新薬を生み出すまでの全ての過程を表しています。通常、新薬を作り出すには10年以上の年月をかけて基礎研究や非臨床試験を経て治験へと進んでいきます。開発された薬は独立行政法人医薬品医療機器総合機構で審査を受けた後、厚生労働大臣の承認と薬価収載を経て保険適用の医薬品になるという流れです。
近年は、効率的に新薬を開発するために人工知能を用いたAI創薬が模索されています。標的分子に最適な化合物の選定や薬効・薬物動態の予測、予後を規定するバイオマーカーの特定、臨床試験結果の解析などは作業量が膨大で、結果が出るまでが長期になりがちです。しかし、医薬関連ビッグデータを機械学習に用いることにより、これらの作業の短縮が期待されます。
抗体医薬
新薬を生み出すまでは、さまざまなアプローチが行われています。
抗体医薬は体内に入った異物を攻撃、排除する抗体の反応を利用した医薬品で、優れた特異性と高い親和性からがんや免疫疾患などの様々な病気で使われています。抗体光学技術の発展により多種多様な抗体の作成が可能になり、有害事象の対策にも用いられるなどさらに幅広い活用が期待される薬です。
分子標的薬
分子標的薬はがんの発生や増殖に関わる分子に作用して、抗腫瘍効果を発揮します。細胞分裂ではなくがん細胞にピンポイントで攻撃するため、従来の殺細胞性抗がん薬と比べて有害事象が少ないと言われています。とはいえ、有害事象が強く表れるほど治療効果が高いという特徴があるため、治療に当たっては有害事象のコントロールが必要不可欠です。
核酸医薬
核酸医薬はDNAとRNA、つまり拡散を人工的に合成した医薬品です。低分子医薬品、抗体医薬が病気の原因であるタンパク質の働きを抑制するのに対し、タンパク質を合成する前段階で病気の原因となる遺伝子に直接作用するため、治療が困難だった遺伝性の希少疾患への実用化が期待されている次世代医薬です。
プレシジョン・メディシン
プレシジョン・メディシンは精密医療とも言い、がん患者の遺伝子情報を解析し、異常のある遺伝子の情報に基づいた治療や予防を行う医療概念です。遺伝子変異についての解明や分子標的薬の開発が進んだことにより、患者に負担の少ない医療が期待されています。
オーファン・ドラッグ
オーファン・ドラッグは患者数が少ない難病に使うもので、希少疾病用医薬品とも呼ばれます。患者数が少なく需要が少ないので開発にコストをかけにくいこと、データを収集しづらいことなどから、本格的な開発が進みづらい点が大きな課題です。国内では対策として、承認申請の簡素化や研究開発のための助成金交付、優先的な承認審査などの優遇措置を設けています。
日々進歩する医薬品と開発環境
このように、日常的に使われている医薬品は様々な技術や知識を活用し、長い年月と多大な労力をかけて生み出されています。技術の発展や臨床データ、研究結果などの蓄積、新たなアプローチなどにより、さらに高い薬効や安全性が期待できる医薬品をより効率的に完成させるように日々努力が重ねられていますので、今後の成果が期待されます。
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