【イベントレポート】理系学生から見た、アサヒグループホールディングス(株)の基礎研究の魅力とは!?
2017年9月29日、アサヒグループホールディングス(株)コアテクノロジー研究所に理系大学院生が訪問し、そこで働く研究者と「基礎研究の大切さ、やりがい」について意見交換会を行いました。
そのイベントの様子と私達が感じたアサヒグループホールディングス(株)で行われている基礎研究の魅力についてレポートします。
アサヒグループホールディングス(株)の研究開発体制について
アサヒグループは、「アサヒスーパードライ」や「もぎたて」をはじめとした酒類を製造・販売するアサヒビール社、「三ツ矢サイダー」「カルピス」など清涼飲料を製造・販売するアサヒ飲料社、「ミンティア」「クリーム玄米ブラン」、ベビーフード、フリーズドライ食品などの菓子・食品類を製造・販売するアサヒグループ食品社など、普段私達がよく目にする飲料や食品ブランドを多数展開する総合飲料食品グループです。
そんなアサヒグループの研究開発体制は、新製品の開発や品質保証など事業に直結した研究を行う各事業会社の研究開発組織と、グループ全体の成長を支える素材開発や基盤技術開発といったいわゆる基礎研究に分類される組織を有するアサヒグループホールディングス(株)から成り、互いに連携しながら研究開発を進めています。
出典:アサヒグループホールディンス(株)HP
(http://www.asahigroup-holdings.com/research/system/)
アサヒグループの成長を支える組織のひとつであるコアテクノロジー研究所では、一体どんな基礎研究が行われているのでしょうか。
理系大学院生と一緒に実際に働く研究者の皆さんにお話を伺いながら食品企業における基礎研究の魅力について考えてみました。
意見交換会参加メンバー
学生
・鶴見 京都大学薬学研究科 修士1年
・熊野 奈良先端科学技術大学院大学 バイオサイエンス研究科 修士1年
・羽生 東京農業大学 食品栄養学専攻 修士1年
アサヒグループホールディングス(株)
・畑中 コアテクノロジー研究所 フローラ技術部
・佐藤 コアテクノロジー研究所 素材技術部
・青木 コアテクノロジー研究所 乳酸菌技術部
アサヒグループでは既存の製品に関連する研究以外に新たな「素材」の開発や探求にも力をいれている。
ーー(学生)企業での基礎研究は「製品ありき」というイメージです。実際の製品と基礎研究はどのようにリンクされているのでしょうか。
アサヒグループは長年、微生物の力を借りてビールや乳酸菌飲料を作ってきました。微生物を十二分に活用するためには、発酵制御や分析等、多くの技術が必要です。
コアテクノロジー研究所では、長年蓄積された技術をもとに、酵母・乳酸菌・腸内フローラを中心に多角的な研究に取り組んでいます。機能性を謳っている製品など、すでに製品化されているものに、情報を付加し価値を高めるために研究を行うこともありますが、これまでにない新しい製品、新しいビジネスを生み出す「シーズ=種」を発掘していく素材研究にも重きをおいています。
例えば、事業会社から「機能性表示食品を出したい」と相談を受けた時には、どんなものが出せるのかを研究所から提案していきますし、逆に研究所の方から事業会社に研究成果を活かして製品化につなげられないか提案することもあります。
そのために普段から、「こんな機能を持った素材があったらいいな」という考えと素材の特性から考えられる可能性をもとに、新たな素材を探索・評価し、そこから「なぜその機能や効果があるのか」といったメカニズムの解明まで行なっていきます。
このメカニズムの解明はみなさんが今大学で行っている研究と大きくかわらないかもしれませんね。
ーー(学生)「研究所から提案する」とのことですが、私のイメージですと、製品のコンセプトなどはマーケティングが考え研究所はそれをもとに素材を探すというイメージでした。
アサヒグループホールディングス(株)では研究所発信の提案が多いのでしょうか。
市場が求めるニーズを狙ってマーケティングから提案される場合もありますが、研究部門では多くの「素材」を持っているので、研究所から「こういう機能を持った素材がある」という発信をしていくこともよくあります。
研究所発信で提案するものは、飲料や食品開発をゴールとするものだけではありません。
例えばこんな研究者がいました。
ビール製造を終えた「ビール酵母」は副産物として取り除かれ、サプリメントや調味料として活用されているのですが、ある研究者はこの「ビール酵母」をもっと有効に活用できないかと考え、研究をしていました。
「ビール酵母」を包む細胞壁にはβ-グルカンという物質が含まれているため、植物の免疫力を高める効果があるのではないかと考えたのです。しかし、その当時のアサヒグループには、農業資材開発に関するノウハウも世の中に売り出して行くために必要なマーケティングデータもありませんでした。
そこで、研究者自ら農家と交渉して現場で試験を行い、最適な加工や散布方法について試行錯誤を重ね、ついに製品として完成させることができました。さらに、この農業資材を使うと植物が強くなり収穫量を増やせるだけでなく、農薬や化学肥料の使用回数を抑えられるため、収穫量あたりの温室効果ガスの排出量の削減も期待できることがわかったのです。これにより、環境や食糧不足といった社会的課題の解決を目指した新規事業会社を2017年春に立ち上げるまでに至りました。
このように、研究者の視点から製品開発につながり、新しい会社の立ち上げにつながるような展開もあります。
▽「ビール酵母細胞壁」の農業資材開発について詳しくはこちら
http://www.asahigroup-holdings.com/research/region/development/agriculture/cell_env01.html
ーー(学生)企業での基礎研究は製品に関わる研究しかしていないと思っていたので、とても意外でした。大学でおこなわれているような、メカニズム解析や新発見に向けた研究も行われているのですね!
こういった基礎研究は大学などと共同で行われているものもありますか。
大学など外部の研究機関との共同研究も活発に行っています。
例えば、すでに飲料やサプリメントとして製品化されている「乳酸菌L-92株」は、花粉症などのアレルギー症状を抑えたり、インフルエンザウィルスの感染予防など免疫に関わる機能が確認されていましたが、具体的にどういうメカニズムで免疫に働きかけているのかということは分かっていませんでした。
そこで、腸における免疫と菌の関わりを調べる技術を持っている理化学研究所に協力を仰ぎ、乳酸菌が小腸にある特殊な細胞(M細胞)から取り込まれ免疫細胞に渡されることを世界で初めて証明したのです。
その他にもたくさん共同研究は行われており、お互いに知識や技術の交換をしながら進めています。
大学と企業との違い、企業の基礎研究では「スピード」が大切だ。
ーー(学生)製品開発とはちがう基礎研究の面白さや魅力をどういったところに感じていますか。
製品開発は「美味しいものを作る」という面白さがあると思いますが、基礎研究では、「未知の事柄を解明する」という面白さがあります。
それは、スクリーニングの時に興味深い機能を持つ菌を見出した時もそうですし、その菌がどのように働いているのか新しいメカニズムを発見した時や、その研究が人々の健康につながっていくものだとわかった時などです。
また、実験データなどがマーケティングや販促などに活用された時はとても嬉しいですし、それが売上につながることにやりがいを感じます。
また、基礎研究だからといって、消費者であるお客様との距離が遠いのではなく、製品化されているものですとお客様の声が研究者にも届きます。
お客様の声から刺激を受けて新しいアイデアが生まれ、新たな研究テーマとなった例もあります。
ーー(学生)基礎研究と聞くとずっと研究ばかりしているイメージだったので、お客様の声を聞いたりすることがあるなんて少し意外でした。
基礎研究を行う上でみなさんが大切にしていることはどんなことでしょうか。
その分野で「自分が一番詳しい」と言えるくらいに知識と自信を持つことももちろん大切ですが、同時に「スピード」も大切だと思っています。
学生時代は時間的制約があまりなかったので研究に没頭できましたが、企業ですと、「今年どれだけ研究を進められるのか」を考えながら研究する必要があります。
しっかり調べることも大切ですが、煮詰まったときには上司や先輩に相談し、方向性を確認します。
また実験においても過去に同じような実験を行っていたとしたら、二度手間になってしまうので、研究者同士コミュニケーションをしっかりとって、「いかに早く結果につなげることができるか」を意識しながら研究をしています。
たとえ、あまりよくない結果が出たとしても立ち止まることはできません。次の一手を早く打つ必要があります。
同じ実験をしていても、いろんなオプションを持つようにしていて、研究をしながら常にこういう結果が出たらどうする、違う結果がでたらどうする、というのを考えています。
こういった思考は企業に入ってから経験を基に身につけていくものだと感じています。
基礎研究を行う組織がホールディングス社に属することで、様々なシナジーが生み出されている
ーー(学生)アサヒグループの基礎研究は各事業会社ではなくホールディングス社としてまとまっていますが、他の事業会社出身の研究者と一緒に研究することはあるのでしょうか。
2016年1月に組織されたコアテクノロジー研究所は、アサヒビール、アサヒ飲料、アサヒグループ食品といった様々な事業会社出身の研究者で構成されています。
また、それぞれの事業会社の研究部門と一緒に研究を進めることもあります。様々なバックグラウンドを持ったメンバーが集まっているため、ミーティングではそれぞれの研究内容や実験方法などの情報交換が活発に行われており、自分たちがやっていなかった実験方法や分析方法など新しい発見が多いです。
技術を吸収し合いながら視野を広げ、新しいアイデアを生み出すことができることが、このホールディングス体制になったことによるメリットですね。
グループ各社の研究部門が集まる研究拠点「アサヒグループ研究開発センター」(茨城県守谷市)では、データをまとめるような事務作業を行うオフィスエリアはフリーアドレス制となっていて、その日の気分や仕事に合わせて自由に席が移動できます。そのため、隣に座った別会社の研究員とも自然にコミュニケーションが生まれる機会も多くあります。
オフィスエリアは自由に席を移動できるフリーアドレス制
出典:アサヒグループホールディングスHP(http://www.asahigroup-holdings.com/research/facility/
初めて知ったアサヒグループの魅力
ーー(学生)
この意見交換会を行うまで、食品業界の研究職というと、「新しい製品の開発」を行っているというイメージでした。
また、アサヒグループでこんなに基礎研究が行われているなんて、全く知りませんでした。
アサヒグループの基礎研究では、ホールディングス社として様々な事業会社の研究者が集まることで、専門性を深めるだけではなく、新たな知見や技術などの横展開ができ、シナジーが生まれ、新しいアイデアの発見などにつながっていることが分かりました。
「世界中の人々の健康で豊かな社会の実現に貢献する」という企業理念のもと、いろいろな分野の研究者が日々素材の開発、メカニズムの解析、生産方法の改良などの研究開発に励んでおり、こういった一つ一つの基礎研究が種となり、私達に食の楽しみや健康に貢献する製品を提供してくれているのだなと実感しました。
貴重なお話を聞く機会をいただきましたアサヒグループホールディングス(株)のみなさん、ありがとうございました。
ーー(学生)
アサヒの基礎研究の成果をここでチェック!!
アサヒグループの研究所の紹介、研究レポートなど詳しい内容がアサヒグループホールディングス(株)のホームページで公開されています。
是非ご覧ください。
http://www.asahigroup-holdings.com/research/
また、最新の研究内容をわかりやすく動画でまとめたR&Dビデオライブラリーも公開されました。
理系学生の私達からみても知らないことが多いので必見です!
http://www.asahigroup-holdings.com/research/video/#lab