ロングセラー商品の秘訣“「カルピス」らしさ”を大切にした商品開発とは!?アサヒ飲料株式会社
理系学生による企業訪問・先輩インタビューシリーズ。
今回はアサヒ飲料株式会社で「カルピス」の商品開発を行っている開発者にお話を伺いました。
飲料業界について
飲料業界は、この10年で市場が10%くらい大きくなっており、年間での市場成長率は約1~2%です。
しかし、猛暑日が続く年はよく売れるなど、季候による売上変動が大きい業界です。
そんな業界の中で、アサヒ飲料の売上高は2002年では約1,800億円でしたが、2016年では4,766億円に成長しています。
現在、アサヒ飲料は業界シェア3位の位置にいます。
世の中の飲料商品は年間約1000アイテム、毎日2~3アイテム新製品が発売されています。
しかし、生き残ることができる商品は、年間多くて3つ、年によっては1つという世界だそうです。
アサヒ飲料の強み、ロングセラーブランドの多さ
そんな中、アサヒ飲料さんでは長年愛されているロングセラーブランドを多くもっています。
今回取材させていただく、「カルピス」も1919年(大正8年)に発売されました。
私たちのひいおじいちゃん、ひいおばあちゃんの世代から愛されている商品なのですね。
引用:アサヒ飲料HP ロングセラーブランド(http://www.asahiinryo.co.jp/company/recruit/about/now.html)
その「カルピス」の商品開発を行う社員さんに早速インタビューさせていただきました。
登場人物
アサヒ飲料株式会社
根本さん、福田さん (研究開発本部 商品開発研究所 商品開発第三グループ )
理系大学生
穴見 (千葉大学 園芸学部 応用生命化学科 4年)
伊東 (筑波大学 生命環境学群 生物資源学類 3年)
商品開発の仕事とは
ーー 早速ですが、現在のお仕事内容についてお聞かせください。
私たちは、「研究開発本部 商品開発研究所 商品開発第三グループ」に所属しており、現在同じチームで働いています。
「カルピス」ブランドの中でも、「コンク」と呼ばれる昔ながらの、希釈して飲むタイプの「カルピス」を主に開発しています。
また、他にも、乳製品周りの開発や、ドリンクバーなどで使われる濃縮タイプの液も開発しているチームになります。
引用:アサヒ飲料HP (https://www.asahiinryo.co.jp/products/milkybeverage/calpis/)
ーー では、希釈しないストレートタイプの「カルピスウォーター」や「十六茶」などアサヒ飲料の他の製品は別チームが担当されているのでしょうか。
はい。アサヒ飲料では、水で希釈せずに、ペットボトルなどで直接飲むタイプの「カルピスウォーター」などのストレート乳性飲料は、別のチームが開発を担当しており、他にも炭酸、果汁、コーヒー、お茶、水などで開発チームが分かれています。
ーー では、商品開発では実際どのようなことを行うのでしょうか。
商品開発は研究所だけが行なっていると学生さんたちは思われがちですが、実は、マーケティグ部、生産部、調達部、品質保証部、研究所などがチームとなって、1つの商品を作り上げていきます。
これらの製品開発における様々な段階に、開発者も関わります。
例えば、アサヒ飲料では、ペットボトルなど、飲み物を入れている容器も自社で開発、製造を行なっています。
新しいボトルの開発は、専門のチームが開発を行なっているのですが、
新しいボトルに詰める中味品質については我々が評価しており、容器変更前後で液の保存性や安定性に影響がないか確認しています。
「カルピス」は「乳」が主要原材料なので、賞味期間である9ヶ月間、分離や沈殿をしないで美味しさを保持できるように設計しています。
また、実際に使用する原料の品質や安全性に問題がないかを確認するのも我々の仕事です。
そして、ラボ試作の段階のレシピをスケールアップしても問題がなく工場で生産できるように、工場とも連携を取っています。
そのため、開発の仕事は、毎日決まった仕事というのはなく、各ステップに応じて様々な検討を行っています。
時期によって異なりますが、だいたい一人、1〜3製品ずつを担当するので、「今日はこの製品の保存性を確認しよう」とか「そのあとにこの製品の試作をしてみよう」など自分で毎日スケジュールを立てています。
ー ー開発者は単に試作品の開発だけではなく製品が出来上がるすべての課程において、様々な部署と連携を取りながら、関わっていかれるのですね。
そうですね。
こちらの製品では工場とやりとりをしていて、別の製品では、マーケティング部とコンセプトや風味についてミーティングをして、といった感じですね。
ー ー味を作るための試作や改良というのは、どのように行うのでしょうか。
はじめに、マーケティング部の担当者から商品のコンセプトが降りてきます。
開発側はマーケティング部の話を聞いて、コンセプトを意識しながら、酸味や甘味のバランスを調整したり、果実に合わせた色や香りに仕上がるように何度も試作や試飲を繰り返して、理想の風味のものを作り上げていきます。
ーー 試作改良を進める中で開発者の方からマーケティング部に提案することはありますか。
もちろん、あります。
開発担当者一人の意見ですと、偏ってしまうため、研究所のチームメンバー全員が試飲し、意見をまとめます。
そして、マーケティング部の意見も聞いて摺り合わせ、「今度はこういう風に改良してみようかな」といった具合に改良を繰り返していきます。
また、
商品の開発はマーケティング部から企画が降りてくるだけではなく、開発者の方からマーケティング部へ提案することもあります。
そういったアイデア出しは年に数回実施されています。
その時に、自分が過去に食べてきたものや見てきたもの、海外に行った時の経験など、その土地の食べ物だったり、飲み物だったり、いろんな事から新しいヒントを得て提案につなげています。
ですので、学生の時から様々な味や形のものを見たり、食べたり、という経験は食品業界で働く時に、役に立つと思います。
ーー 印象に残っている商品はどんな商品でしょうか。
福田さん:
商品開発は一人で行うのではなく、様々な部署やチームメンバーと作り上げていくものですが、やはり担当製品は、“自分の製品”という意識が強く製品一つ一つに思い入れがあります。
特に入社当時、最初に担当した製品は、「カルピス」のいちご味だったのですが、初回生産の時に工場で立ち会いをし、実際にラインに製品が流れてくる姿をみると、「ようやく形になった」と、とても嬉しく、未だに覚えています。
ーー 逆に苦労された事はございますか。
根本さん:
ありますね。
以前、「守る働く乳酸菌」の立ち上げ時の開発と、既存の定番製品である「ほっとレモン」の改訂という、比較的大型の開発案件を2件同時に担当した時は大変でした。
内容的には求められている課題が多くとてもハードで苦労しました。
また、スケジュールが同じだったので、乳性と果汁で頭が混乱したのですが、最終的にはどちらの商品も、無事に開発することができました。
「カルピス」らしさへのこだわり
ーー 「カルピス」製品の開発で大切にされていること、歴史のある商品ですが、変わらないところはどんなところでしょうか。
「カルピス」は乳酸菌だけではなく、酵母も入っており、二段階発酵をしているところが特徴です。
乳酸菌でまず発酵させ、酸っぱくして、そこからさらに酵母の発酵をかけます。
そうすることで、独特の香りが生まれ、その香り自体にリラックス効果があると言われています。
「カルピス」は100年近くこの二段階発酵を続けており、乳酸菌だけではなく酵母の発酵の効果についても基礎研究を行っています。
また、他社メーカーさんとのコラボレーション商品においても「『カルピス』らしさ」を大切にしています。
ーー コラボレーション商品の開発もこの研究所が行っているのでしょうか。
他社さんとのコラボレーション商品(飴やデザート、パンなど)は、実際の商品開発はそのメーカーが行いますが、そこで使う製菓向けの「カルピス」の原料開発は、私たちのチームが行っています。
また、他社メーカーさんが作り完成した製品であっても、販売前に私たちのチームが風味評価を行っています。
なぜかというと、私たちは、「カルピス」というブランドをとても大切にしているので「カルピス」という名前をつけるからには、「カルピス」らしい風味がきちんと出ていないと商品として世の中に出すことができないからです。
このことは、他社製品のみならず自社製品の開発にも、もちろん当てはまります。
ーーでは、その「『カルピス』らしさ」はどのように評価されているのでしょうか。
「官能評価」を行います。
この「官能評価」はとても難しく、「パネル」と呼ばれるしっかり訓練された評価者が行います。
「パネル」は、おいしさなど、嗜好性だけではなく、甘味、塩味、酸味、にがみ、うまみの五味を識別でき、かつ濃度差も識別できるテストに合格しなくてはいけません。
この試験は毎年あり、落ちてしまうとパネルになれません。みんな合格できるように普段から五味を意識して訓練を行っています。
このような試験を経たパネルによる「官能評価」は厳しく、先日、「カルピス」を牛乳で割る商品「牛乳と楽しむ『カルピス』」を開発していた時には、牛乳の風味が強すぎて「『カルピス』らしさ」が全く出てこなくて、何度もこの試験に落ちてしまい、改良に改良を重ねました。
この「『カルピス』らしさ」をきちんと出すというところが、開発の中でとても苦労しているところです。
ー ー基礎研究で発見された効能を実際に商品化した製品ではどのようなものがありますか。
例えば、最近発売された商品ですと、乳酸菌で体脂肪を減らす「カラダCALPIS」がそうですね。
出典:カラダCALPIS HP(https://www.asahiinryo.co.jp/karada-calpis/)
この商品に入っている「乳酸菌 CP1563株」は8年前に私が入社したころは、発見はされていましたが、まだ製品化までの開発は進んでいませんでした。
その後、レシピの開発、機能性表示食品に申請するなどの方向性、論文を出すタイミングなど、いろいろ検討をすすめて、現在の商品化に至りました。
私たちは、商品開発を担当しておりますが、基礎研究では、発酵や乳酸菌の効果効能などの研究をしています。
長年の研究により、膨大な微生物のライブラリーやデータベースを持っているので、そこから新しい効能などが発見されると、マーケティン部が商品のコンセプトを検討し、私たちの商品開発チームが開発を進めています。
世代を超えて愛される商品に携われる幸せと誇り
ー ー入社されたきっかけを教えてください。
根本さん:
私は食品業界をいろいろ見ていました。選考が進むにつれ、人事の方や先輩社員の方の雰囲気がとても良かったので、入社を決めました。
福田さん:
私は業界問わず、片っ端から受けてたタイプですね。
製薬、化粧品、食品などの会社を受けている中で、志望動機を一番スラスラと自分が納得して書くことが出来たのが、食品業界だと途中で気づきました。
そこから食品企業に絞って就職活動を行いました。
また、やはり「カルピス」自体が好きだったことと、子供から、私の祖母の年代まで、世代を問わずに広く知られている飲料って他にあんまりないですよね。
そういう製品を自分でも作ってみたいと思い、この会社に入りたいと考えました。
ー ー入社してみていかがですか?
根本さん:
人がよくて、コミュニケーションが取りやすい環境ですね。
福田さん:
学生のみなさんも、「カルピス」が試飲販売している姿を街中で、みかけるかもしれませんが、7月7日の「カルピス」の誕生日に合わせて行う試飲会は部署問わず実は社員が行っています。
この試飲会はお客様と直接お話が出来る時別な時間です。
その時に、子供からお年寄りまで、様々な「カルピス」の思い出話を聞くと、とても嬉しくなり、誇りに思いますね。
ーー 職場の雰囲気はいかがでしょうか
福田さん:
雰囲気はとてもなごやかで、何でも話し合うことができる環境です。
私は子供が2人いて、2回育児休暇を取りました。
職場でも子育ての悩みなども普通に言えるような環境ですし、子供が体調を崩した時にもフォローしてくれる環境にはあるので、すごく働き易いですね。
特にこの相模原の研究所は、子育て世代の社員が多いということもあり、今年育休から復帰したメンバーも何人かいます。
そういったメンバーでよく情報交換をしています。
また、ママさんだけでなく「今日はお迎えがあるので早めにかえります」という上司やパパさん社員も多くいます。
お互いがお互いをフォローし合える、そんな環境ですね。
ー ー今後の夢や目標をお聞かせください。
福田さん:
自分の子供たちにも自信をもって飲ませることができるような安心・安全で、心と体の健康でよい製品を作り続けたいなと思います。
根本さん:
私自身、開発はとてもやりがいがあって楽しいのですが、今後、他の部署なども経験できたらいいかなと思っています。
開発をやってからこそわかってきた自分なりの視点を活かして活躍したいと考えています。
根本さん、福田さんありがとうございました。
取材を通して私たちが感じ、学んだこと
今回、私たちが大好きな「カルピス」の商品開発について詳しくお聞きすることができました。
長年の研究や、「『カルピス』らしさ」を大切にした商品開発、そして、そのことに誇りを持った社員、すべてが長年愛されている商品を持ち続ける秘訣なのだと感じました。
また、技術職では、研究職、開発職、生産部 調達部、品質保証部など様々な分野で理系活躍できるフィールドがあるということ。
ブランドや職種を限定しないで、キャリアを積むことが出来ることも魅力でした。
商品開発の分野では化学の知識を使うことが多いとのことなので、勉強も続けて頑張っていきたいです。
とても貴重なお時間をいただき、アサヒ飲料株式会社様、誠にありがとうございました。
会社概要
社名 | アサヒ飲料株式会社 |
住所 | 〒130-8602 東京都墨田区吾妻橋一丁目23番1号 |
設立 | 1982(昭和57)年3月30日 |
従業員数 | 約3,300名 |
資本金 | 11,081,688,000円 |
事業内容 | 各種飲料水の製造、販売、自動販売機のオペレート、その他関連業務 |
企業HP | http://www.asahiinryo.co.jp/ |